2016年10月8日にスイスのチューリッヒで初めて「サイバスロン(Cybathlon)」という競技会が開催された。義足や義手、車いすなどの医療・アシスト機器を使った障害者がパイロットとして出場する競技会だ。パラリンピックは障害者スポーツの競技会であるが、サイバスロンはパイロットのパフォーマンスと同列にテクノロジー自体の役割がより重要な種目が中心となっている。

*1 サイバスロンについての詳細は、公式サイトを参照。

 競技の種目は「ブレイン-マシンインターフェース」「機能的電気刺激自転車」「パワード義手」「パワード義足」「パワード外骨格」「電動車いす」の6部門に分かれており、私が代表を務める企業であるXiborgはパワード義足の部門に参加した。

2016年10月8日に開催された「サイバスロン」の公式トレーラー(動画:「Cybathlon 2016」のYouTube公式チャンネルから)

 今年はリオパラリンピックがあったこともあり、競技用義足を目にした方も多いだろう。Xiborgもリオパラリンピックに参加した佐藤圭太選手(トヨタ自動車)が使用する競技用義足を開発したが、今回のサイバスロンのために必要となる義足と、走るための義足とは全く異なるものである。

 パラリンピックでは義足アスリートのパフォーマンスが健常者に追い付きつつある。しかし、実は日常生活のための義足は、健常者の身体能力にまだまだ及ばないのが現状だ。

 パラリンピックの短距離種目では、バネのように弾みながら地面を蹴る動作を繰り返し行うため、板バネのような義足が使われる。だが、人間は走るだけではなく、立ち座り、階段昇降、障害物回避など多様な動きをすることができる。その運動を実現するために、人間は目で見たり、足裏で地面の状態を感じ取ったりして、次の動きを判断しながら、筋肉を使って関節を動かしている。

 一方で一般に市販されている義足のほとんどは、受動的な機械要素で構成されており、利用者が自分の意思で動かすことはできない。足首部はカーボンの板で構成されているだけのバネでできており、膝部には振り子のようなヒンジにバネやダンパを組み合わせたような機構が主流だ。

 モーターなどで能動的に関節を動かせるようにする義足の研究も多く行われているが、人間の多様な機能をカバーしようとするとサイズが大きくなったり、重たくなったりするため、製品化は困難であった。しかし、近年では、機械部品や電子部品、バッテリーの小型化が進み、義足も電動化の時代がやってこようとしている。

 日本でも「TED Conference」で話題になった米マサチューセッツ工科大学(MIT) Media labのHugh Herr教授は、その電動化義足研究の第一人者だ。彼は自身の両方の足首を凍傷で失い、自分たちで開発したロボット義足をつけて登壇し、注目を集めた。ちなみに、私の博士課程の恩師でもある。

TED ConferenceでのHugh Herr教授の講演動画(動画:「TED」のYouTube公式チャンネルから)