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身体化するテクノロジー、サイボーグ化する身体

テクノロジー視点で見た競技用義足、難しさの理由

主流は地面からの反発力を最大限に使うタイプ

2016/09/12 20:00

遠藤 謙=Xiborg 代表取締役、ソニーコンピュータサイエンス研究所 アソシエイトリサーチャー

 パラリンピックの陸上競技では、「T42」(大腿義足)、「T43」(両足下腿義足)、「T44」(片足下腿義足)の3つのクラスで義足が使われる。競技用義足には非常に高度な技術とノウハウが詰め込められていて、アスリートたちはそれを使いこなすために日々鍛錬を行っている。ただ、各選手の義足を見ても、今一つ違いが分からない方も多いだろう。

 競技用義足の板バネはよく「カーボンでできている」といわれるが、実は炭素繊維と樹脂が混じり合った「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」という表現が正しい。形状もよくみないと製品ごとの違いが分かりにくい。

 素材1つをとってみても、CFRPには様々な種類が存在する。例えば、カーボン繊維で世界トップシェアの東レの製品情報*1を見てみると、義足に使用する「プリプレグ」というシート状の素材は繊維や樹脂の組み合わせで50種類以上ある。さらに繊維の方向を変えることで、その特性は劇的に変化する。

*1 東レの製品情報は、同社のサイトを参照

 義足はプリプレグを何十枚も積層させて出来上がるので、義足開発は無数の組み合わせからたった1つの答えを探し出すことと等しい。CFRPの義足を1つ作るには時間もコストもかかる。このほかにも開発の難しさは数多く存在し、これらのことを考えただけでも義足の開発がどれだけ難しいかは想像できるだろう。

義足メーカー2強が開発した義足とは

 現在、競技用義足はアイスランドのÖssur社と、ドイツのOttobock社の2強時代といえる。両社がどんな義足を開発しているか少し紹介したい。

Össur社の「Flex-foot Cheetah」(写真:(c)Kikuko Usuyama)

 2003年、米国のMarlon Shirley選手が10秒97と、義足アスリートとしては100m走で初めて11秒を切った。これは当時不可能と言われていた記録であり、実現させたのは彼の努力とÖssur社の「Flex-Foot Cheetah」という義足である。

 圧倒的に軽く、2012年のロンドンパラリンピック以前の主流となった。義足アスリートとして初めてオリンピックに出場した南アフリカのOscar Pistorius選手が使用していた。

 また、現世界記録保持者のAlan Oliveira選手(ブラジル)も両足にこの義足を履いている。また、日本の鈴木徹選手(T44クラス)は、この義足を履いて今回のリオデジャネイロパラリンピックの走り高跳びに出場する。

Ottobock社の「Springlite Sprinter」(写真:(c)Mikio Ikeda)

 一方、パラリンピックスポンサーのOttobock社は「Springlite Sprinter」という競技用義足を開発した*2。これは比較的安価で、なおかつ高機能な競技用義足である。使用難易度も低く、地面からの反発を得られやすいので、下腿義足だけではなく大腿義足ユーザーもこの板バネを使用している選手は多い。

*2 Ottobock社の「Springlite Sprinter」については、同社のサイトを参照

 女子のT43クラスの世界記録保持者であるオランダのMarlou Van Rhijn選手は両足ともこの義足を使用している。また日本の大腿義足アスリートの大西瞳選手や前川楓選手もこの義足を履いてリオパラリンピックに挑んでいる。

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