開発者による機能性と、選手によるトレーニングと

 現在、男子のT44/43クラスは前述したÖssur社のXtremeが主流だ。リオパラリンピックのT44/43クラスの男子100m走の決勝では、8人のうち7人がこの義足を使用していた。義足を大きくたわませ、反発力を最大限に利用しながら前に進める。その代わり重さがあるため、足を前にもってくることが難しい。股関節を大きくは開かず、前方で足を裁く走り方が現在のところ短距離走のスタンダードになりつつある。

 一方でOttobock社のSprinterは軽量でバランスのとれる仕様になっているため、女子のスプリントではÖssur社と並んでよく使用されている印象だ。義足アスリートは自分の身体の大きさや能力、向き・不向きを考慮しながら戦略を練って義足を選定する。そして、義足にあった走り方をトレーニングを通して習得、あるいは発見していく。

 パラリンピックで見られた義足アスリートのパフォーマンスは、義足の開発者が積み上げてきた機能性の上に、選手とコーチの日々のトレーニングが組み合わさって出来上がったものなのだ。しかし、残念ながら今のところトップレベルで使用される競技用義足は数種類しか存在しない。今後さまざまな種類のものが開発されれば、走り方に多様性が生まれてくるはずだ。義足アスリートによるパラリンピックの短距離種目の楽しみ方として、選手のタイムだけでなく、義足の種類や走り方にも注目してほしい。

 日本時間9月13日の早朝(5時30分~、予定)には男子4×100mリレーがある。オリンピックで銀メダルを獲得したように、パラリンピックでもメダル獲得の期待が大きい。パラリンピックのリレーでは、腕のない選手を考慮して、体に触ることがバトンの代わりとなる。障害クラスも「T42~47」のさまざまな選手が登場する。義足の種類、選手の走り方、バトンタッチなどオリンピックとはまた違うリレーをぜひ楽しんでほしい。

* 本記事で紹介した選手の使用義足についてリオパラリンピック前の情報で、変わっている可能性がある
遠藤 謙(えんどう・けん)
Xiborg 代表取締役
遠藤 謙(えんどう・けん) 慶應義塾大学修士課程修了後、渡米。マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカニクスグループにて、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。2012年博士取得。一方、マサチューセッツ工科大学D-labにて講師を勤め、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。また、途上国向けの義肢装具の開発、普及を目的としたD-Legの代表、途上国向けものづくりビジネスのワークショップやコンテストを主催するSee-Dの代表も務める。2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)に選出された。2014年ダボス会議ヤンググローバルリーダー(写真:谷山 實)