ハードウエアスタートアップの成功の10条件のうち、今回は「専用アプリとのスムーズな連携」を中心に解説したいと思います。

 ハードウエアスタートアップの多くが手掛けるIoT機器では、iOSやAndroid、Linux、Windowsなどの各種OSと、アプリケーションソフトウエア(以下、アプリ)との連携が不可欠です。言い換えれば、アプリのよしあしが、IoT機器を利用するサービス全体の品質を大きく左右します。ハードウエアスタートアップは、IT業界出身が少なくなく、比較的アプリ開発自体にはハードルを感じていません。ところが、見過ごしがちなポイントが大きく2つあります。これにより、アプリとIoTの親和性が低下してしまいます。

 1つは、「通信」です。頻度は製品によりますが、アプリは基本的にIoT機器と通信します。ですから、ユーザー体験(UX:User eXperience)を向上させるためには、ユーザーが意識しないほどスムーズに動作させる必要があります。Bluetoothや無線LANだけでなく、音声通信もそうです。機器や対応アプリの開発では、通信機能の最適化を後回しにしがちですが、多くの時間を割くべきです。これは製品発売前だけでなく、機器のファームウエアやアプリのアップデート時も同様に、通信の最適化を強く念頭に置くべきでしょう。

 アプリのアップデートは非常に手間が掛かる作業です。特に、OSがアップデートされたときに、動作確認が必要になります。もし不具合があると、修正しアップデートしなければなりません。外部の協力会社に委託すると、煩雑かつ開発費用の増加という問題が生じる恐れがあるので、この作業は自社内で取り組むべきです。もし、ユーザー体験に影響しないのであれば、OSに依存しにくい、Webアプリの活用も検討するといいでしょう。

世界観を統一すべし

 ハードウエアスタートアップがアプリ開発で見落としやすいもう1つのポイントは「世界観の統一」です。IoT機器や同機器を利用したサービスを成功させるためには、機器自体のハードウエアと、アプリというソフトウエアで世界観を統一しなくてはなりません。言い換えるとブランドコンセプトに合致するようにハードウエアとソフトウエアを調和させることが不可欠です。アプリや機器のファームウエアは、製品発売後でもネットワークを通じてアップデートできます。ですが、ボタン配置や色などの外観デザインは、基本的に買い替える以外、アップデートする手段はありません。ですから、発売前から、意匠を含めて、IoT機器とアプリで調和を取る必要があります。

 仮に、ロボット掃除機のアプリがあったと考えてください。このアプリが、キャラクターを利用したポップなGUIでは、掃除機と調和が取れているとは言いがたいでしょう。実際、最近iRobot社が、同社のロボット掃除機「Roomba」向けに提供を始めたアプリは、ロゴを含めて、掃除機本体と調和が取れたものでした。

 今回紹介した、ハードウエアスタートアップが見過ごしがちな2点を満たす上で重要な役割を果たすのが「プロジェクトマネージャー(PM)」です。このPMが、IoT機器や対応サービスの世界観や目指すべきUXを明確にして、ハードウエア開発チームとアプリ開発チームにしっかりと伝えて、両チームがしっかりとコミュニケーションを取れるように努めなくてはなりません。

 以降では、上記2点を強く意識したハードウエアスタートアップの事例を紹介します。私が製品企画から開発・量産でアドバイスしたチケイ(本社・東京)のトランシーバー端末「BONX(ボンクス)」です。この端末は、トランシーバー界の「GoPro」のような存在です。その理由は後述します。