日本の大学の理工系研究室とベンチャー企業を対象に、アナログ技術を生かした信号処理研究を応援する「NEアナログ・イノベーション・アワード」。第1回の贈賞式が、記念シンポジウムと共に2017年1月25日に開催された。受賞スピーチと、著名なアナログ技術者による特別講演・対談に聴衆は聞き入っていた。この場で参加者が共有した思いは、アナログ技術こそ産業を変革し得る可能性だ。

記念シンポジウムは品川駅(東京都)近くで開催された。(本記事中の写真:菊池くらげ)
記念シンポジウムは品川駅(東京都)近くで開催された。(本記事中の写真:菊池くらげ)
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 記念シンポジウム「~今こそ、アナログ技術者にチャンスあり~」では、審査員が選んだ最優秀賞など6者を表彰した。最優秀賞は、広島大学 藤島研究室の「無線通信で光通信の伝送速度を達成へ、『テラヘルツ波』対応のCMOSチップで実現」である。300GHzの周波数帯域(テラヘルツ波)を利用して、100Gビット/秒と極めて高速なデータ伝送速度の実現を目指す。審査員代表の東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)教授兼マイクロシステム融合研究開発センター長(μSIC)の江刺正喜氏は、「現行のCMOSプロセスでは、fmax(電力増幅率が1となる最大周波数)が300GHzに達していない。そうした厳しい条件の下、回路構成を工夫することで、CMOSプロセスでRF(無線周波)トランシーバーを実現した。将来有望」と高く評価した。

 受賞した藤島実氏は、受賞スピーチで登壇し、テラヘルツ波を利用した無線通信技術の将来像を語った。最も期待できるアプリケーションに第6世代(6G)の無線通信方式を挙げた。「無線通信は約10年ごとに進化を遂げている。2030年ごろには、データ伝送速度が100Gビット/秒と高い6Gの無線通信方式が実用化されるだろう。そのときテラヘルツ波は有効な手段の1つになる」(同氏)。

 さらに同氏が将来有望と挙げたのが宇宙空間との無線通信だ。スーパーコンピューターを人工衛星のように宇宙空間に置き、地球局との間をテラヘルツ波で結ぶ。スーパーコンピューターを宇宙に置けば、太陽電池パネルで電力の問題を、周囲温度が低いため冷却の問題も解決できるという。