次世代パワーデバイスの開発が盛り上がりを見せる中で、次々世代候補との呼び声が高いダイヤモンドの研究開発が活発化している。「究極の半導体材料」ともいわれるダイヤモンドはSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代パワーデバイス材料よりも、ワイドバンドギャップなどあらゆる特性で優位であり、注目度は年々高まっている。

 このダイヤモンド半導体の分野で注目を集めている人物が、金沢大学大学院 自然科学研究科 電子情報科学専攻 准教授の徳田規夫氏だ。同氏は昨年(2016年)、反転層型ダイヤモンドMOSFETの動作実証に成功するなど、大きな成果を挙げており、パワーデバイス業界でも注目を浴びている。「次世代材料でシリコン系パワーデバイスをすべて置き換えられるのは、ダイヤモンドだけ」(徳田氏)と言い切るように、ダイヤモンドに無限の可能性を感じているという。同氏にこれまでの歩みと、今後の目標を語ってもらった。

金沢大学大学院 自然科学研究科 電子情報科学専攻 准教授<br>徳田規夫氏
金沢大学大学院 自然科学研究科 電子情報科学専攻 准教授
徳田規夫氏

——半導体との出会いは。

徳田氏 私は中学の時にパソコンやプログラミングに興味を持ち、津山工業高等専門学校(高専)の情報工学科に進学した。最初の3年間で感じたことは“自分には向いていないな”だった。このまま就職すると、向いていない仕事を一生することになるかもしれないと思い、将来やりたいことを考え直した。その結果、これからはロボットの時代が来るだろうと考え、当時ロボットに関する研究が盛んだった筑波大学工学システム学類への編入学を目指した。その後、猛勉強した結果、なんとか合格することができた。筑波大でロボットの勉強をして分かったのは、ソフトウエアの要素ももちろん重要だが、ハードウエアに依存する部分が非常に大きく、特にCPU、センサー、パワーデバイスの性能を上げないといけないと痛感し、半導体デバイスに興味を持った。ここが半導体への道に進むターニングポイントだった。

——ダイヤモンドの開発に携わるようになったキッカケは。

徳田氏 大学3年生の夏休みに東芝の研究開発センターにインターンシップに行った。大学3年生で研究開発センターに行けたのは非常にラッキーだった。東芝では主に半導体デバイスのための高誘電体材料の研究開発のお手伝いをさせていただき、約1カ月と短い期間であったが、研究開発現場の最前線を味わうことができた。その後、東芝出身の山部先生の研究室に所属し、ゲート絶縁膜やシリコン表面構造制御に関する研究を行った。当時から「シリコンは限界」と言われていたが、シリコンは、半導体デバイス物理を理解し、ナノ・原子レベルの構造制御、量子力学を含むその物理現象の観察、最先端プロセス技術を修得するには最も適した材料であったと考え、博士後期課程へと進学し、博士号取得に至った。

 博士号取得後のテーマとして、次世代の半導体材料として注目を集め始めていたダイヤモンドに着目し、そのころダイヤモンドの半導体応用に向けて研究開発に力を入れていた産業技術総合研究所にポスドクとして入った。これがダイヤモンドとの最初の出会いだ。私がポスドクとして在籍していた2005~09年の間は、JST CRESTやNEDOでダイヤモンドの国家プロジェクトも走っている時で、タイミング的にも非常に良かった。