次世代パワーデバイスの基板材料としてSiCウエハーが注目を集めている。その本格的な市場拡大に向けて強く求められているのが、低価格化と高品質化である。とりわけ、高品質化においてはエピタキシャル成長層のさらなる欠陥低減が求められており、関連各社は技術開発に力を入れている。

 黒鉛やカーボン製品の大手サプライヤーとして知られる東洋炭素㈱(大阪市西淀川区)は、独自の表面処理技術を用いてSiCエピウエハーを高品質化することに成功、新規参入を果たそうとしている。開発を統括する北畠真氏に自身の経歴、および技術の概要や今後の事業展望について話を聞いた。後編となる今回は、東洋炭素独自のSiCウエハーの高品質化技術と今後の事業展望についてうかがった(前編はこちら、本コラムの詳細はこちら、PDEAについてはこちら、半導体テスト技術者検定の教科書についてはこちら、検定の問題集についてはこちら)。

――2016年4月には東洋炭素として大きな発表を行いました。

北畠 SiCウエハーは結晶をスライスしたのち、エピタキシャル成長の前に表面を研磨・ポリッシングする。表面の平坦性を高めることがエピタキシャル層の品質に直結するためだ。従来から、このSiCウエハーの研磨はCMP(化学的機械研磨)を用いていたが、ウエハー表面に大きな力を加えるために、どうしても「潜傷」と呼ばれる深い傷の欠陥がウエハーに付いてしまう。こうした欠陥や加工ひずみを抜本的に除去できるのが、当社と関西学院大学が共同開発したSiCウエハーの独自表面処理技術「Si蒸気圧エッチング法」だ。

 この表面処理技術を用いることで、従来のCMP処理SiCエピタキシャルウエハー(エピウエハー)に内在している加工ひずみや潜傷の除去が行え、エピタキシャル欠陥を従来に比べて約1/20に低減することに成功した。この独自表面処理には東洋炭素が製造しているTaC/Taるつぼが用いられている。るつぼ内部でSi蒸気とSiCウエハー間で熱化学反応を起こすことで、ウエハー表面がエッチングされて平坦化できる。

SiCの欠陥除去に用いられるTaC/Taるつぼ
SiCの欠陥除去に用いられるTaC/Taるつぼ
東洋炭素が製造している。(写真提供:北畠真氏)
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