次世代パワーデバイスの基板材料として注目を集めるSiCウエハー。シリコン(Si)系パワーデバイスを超える低損失化や高温動作が可能になるとして、長年開発が進められているが、本格的な市場拡大に向けては、基板となるSiCウエハーの低価格化、高品質化が強く求められている。とりわけ、高品質化においてはエピタキシャル成長層のさらなる欠陥低減が求められており、関連各社は技術開発に力を入れている。

 黒鉛やカーボン製品の大手サプライヤーとして知られる東洋炭素(大阪市西淀川区)は、独自の表面処理技術を用いてSiCエピウエハーを高品質化することに成功、新規参入を果たそうとしている。開発を統括する北畠真氏に自身の経歴、および技術の概要や今後の事業展望について話を聞いた。前編となる今回は、北畠氏のSiCウエハー開発のルーツであるパナソニック在籍時、およびその後の国家プロジェクトでの活動内容と、東洋炭素への入社の経緯についてうかがった(本コラムの詳細はこちら、PDEAについてはこちら、半導体テスト技術者検定の教科書についてはこちら、検定の問題集についてはこちら)。

――まずは、北畠さんのご経歴から教えてください。

東洋炭素 執行役員の北畠真氏
東洋炭素 執行役員の北畠真氏
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北畠 松下電器産業(現・パナソニック)に入社して、35年一貫してデバイス向け薄膜材料の研究開発に従事してきた。その多くがカーボン系薄膜材料の開発に携わっており、SiCをはじめ、ダイヤモンドの開発にも関わってきた。パナソニックにとってのパワーデバイスは家電向けという位置付けがあり、SiCパワーデバイスは開発当初から、自社の家電製品への搭載を念頭に置いたものだった。当時も今もパワーデバイスといえば、シリコン系が主役であるが、パナソニックとしてパワーデバイスは後発メーカーであったので、開発当初から次世代のSiCなどにリソースを投じていた。

――当時のSiCデバイスおよび結晶の開発状況は。

北畠 私が開発を開始した1990年初頭は、京都大学の松波弘之教授がSiC結晶の作製に成功したことが大きなニュースになったり、米Cree社がSiCウエハーの販売を開始したりしたタイミングであり、工業化に向けた可能性が大きく広がった時期でもある。その当時、日本でも国家プロジェクトがスタートして、パナソニックとして開発に本腰を入れるようになり、私もこのプロジェクトに参画した。当初の私の研究は、Siウエハー上にSiCエピタキシャル成長を行うヘテロエピタキシーに関して。現在のエピタキシャル成長技術の主流であるMOCVDではなく、MBE(分子線エピタキシー)を用いていた。当時はコストの議論がスタートする前で、まずは高品質のエピタキシャル成長を行うことが大前提だった。その後ヘテロエピタキシーに限界を感じ、基板もエピタキシャル層もSiCというホモエピタキシーとそのデバイスの開発に徐々に軸足を移していった。