本コラムの連載「パワーデバイスの未来を描く思考回路」でおなじみの多喜義彦氏に、計6回にわたる連載に込めた思いと新連載の概要、そしてパワーデバイス・イネーブリング協会(PDEA)での活動および日本のパワーデバイス産業に対する意見を伺った。同氏が代表取締役を務めるシステム・インテグレーションは、クライアントに対して新規事業開発の支援を行う、同業他社とはまったく異なる独自のコンサルティングサービスを提供する企業だ。1970年の創業以来、150社以上に上る顧問契約と、3000件を超える発明創出実績など、あえて得意分野を設けず、オール・ジャンルで事業を展開している。同氏はまた、PDEAの理事としても活動している。

――PDEAの理事として活動を始めたきっかけは。

多喜 アドバンテストの松野晴夫前社長が当時まだ部長だったときに、私の講演を聞いてくださったのが始まりだ。そこから、少し知財関連でお手伝いすることになって、日本発の半導体デバイスであるパワーデバイスの標準化を促すという構想に共感し、PDEAの理事を引き受けることになった。日本は昔から標準化という作業が非常に苦手で、これを海外企業に主導権を握られており、競争力を失ってきたという歴史がある。日本の企業は良くも悪くも、性善説で物事を進める癖がある。標準化に関して少し誤解している部分があって、世界的に見ても非常に遅れている。こうした標準化に向けた活動で少し貢献できればと思い、理事としての活動を続けている。

――なぜ、日本は標準化が不得意なのですか。

多喜 結論からいうと、日本は性善説で物事を進めるからだ。今まではそれでやれてきた。ものづくりにおいて、棲み分けという言葉があるのはおそらく日本だけでないか。ところが、欧米ではこういったカルチャーがない。彼らは悪い言葉でいえば、「談合」をしてきた。ところが日本は島国であることも関係しているかもしれないが、こうした文化がなく、談合を「悪」と捉えてきた。今のところ、パワーデバイスはトヨタ自動車を頂点に日本は競争力を持っているが、もしこれが崩れれば、日本のパワーデバイス産業は一気に衰退してしまう危険性もある。こうした状態を避けるためにも、日本発でパワーデバイスの標準化を進めなければ、必ずアジア勢に「物真似」されて後悔するときが来てしまうと思っている。