千葉工業大学 教授で、パワーデバイス・イネーブリング協会(PDEA)理事の山本秀和氏
千葉工業大学 教授で、パワーデバイス・イネーブリング協会(PDEA)理事の山本秀和氏

 半導体産業において、パワーデバイスはロジックやメモリーといった華やかなものと異なり、一見地味な存在に映る。しかし、電力変換・制御を主目的としたパワーデバイスへの注目度は年々増している。省エネルギー化の推進に向け、パワーデバイスはパワーエレクトロニクス製品を構成する上で、モーターと並び文字通りキーデバイスとして位置付けられている。ありとあらゆるところにパワーデバイスが用いられていく中、パワーデバイス市場は安定的な成長が見込めるとされており、日本をはじめ、世界の半導体メーカーの多くが注力分野の1つに挙げている。

 さらに、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といったWBG(ワイドバンドギャップ)半導体を用いた次世代パワーデバイスの開発も進展、加えてシリコンパワーデバイスでは300mmウエハーを用いた生産への取り組みも開始されており、技術面でも今まさに変化の最中にあるといってよい。

 こうした背景を踏まえ、千葉工業大学 教授でパワーデバイスの研究に従事し、パワーデバイス・イネーブリング協会(PDEA)の理事も務める山本秀和氏に、パワーデバイス分野の現状、そして問題点、今後の方向性などについて聞いた。前編と後編の2回にわたって紹介する。前編となる今回は、パワーデバイスの現状や進化の方向性についてうかがう(本コラムの詳細はこちら、PDEAについてはこちら、半導体テスト技術者検定の教科書についてはこちら)、検定の問題集についてはこちら)。

――山本教授はかなり以前からパワーデバイスに注目していたのか。

山本氏 1984年に三菱電機に入社し、まずCCDカラーイメージセンサーの開発に携わった。しかしその後、三菱電機がCCD事業から撤退したのを機にシリコンウエハーの開発に関わることになった。ご存じのように、CCDは結晶品質がデバイス性能に良くも悪くもダイレクトに反映される性格を持っており、CCD開発で培った知見を生かせるとしてこのウエハーの開発に身を置くことになった。

――パワーデバイスの開発に関わることになったきっかけは。

山本氏 ある意味突然で、まさに青天の霹靂(へきれき)だった。当時、パワーデバイスのことはあまり理解できておらず、縦方向に電流が流れることすら分かっていなかったが、いきなりデバイス開発部長を任されることになってしまった。ただ、パワーデバイスも結晶品質がダイレクトに反映されるという意味ではCCDと同じで、ここから私のパワーデバイスとの関わりがスタートすることになる。パワーデバイスの開発は2001年からで、三菱電機では約10年間パワーデバイスの開発に従事した。

――苦労した部分も多かったのでは。

山本氏 右も左もわからない状態で、最初は大変だった。しかし、逆にパワーデバイスのことを知らなくて良かったこともあったと思っていて、それはLSIとパワーデバイスの違いをフラットな目線で比較することができたからだ。

――それは事業面か、技術面か。

山本氏 やはり、技術面だ。ただ、事業面という意味ではパワーデバイスは非常に特殊な事業展開を求められる世界だ。LSIは極端にいえば、汎用品なので、「同じものをいかに安く作るか」が大事であるが、パワーデバイスは「いかに顧客のニーズを製品に取り込んでいくか」が勝負の分かれ目で、カスタム性の強いものだ。

 私がいた三菱電機をはじめ、日本のパワーデバイスメーカーはこうした顧客の意見を製品に反映させることに長けており、現在の競争力の礎にもなっていると思う。これは簡単に構築できるものではなく、長年の信頼関係からくるところが強い。ある意味、パワーデバイス分野の参入障壁にもなっていると理解している。