自動車の電動化が急ピッチで進んでいる。もはや、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車は珍しい存在ではなくなった。一般消費者でも、気軽に手を伸ばせる存在になった。それだけに、性能向上や低コスト化、デザイン性などに厳しい要求が課せられている。それは最終製品である自動車だけではない。そこに搭載される部材にも同じような厳しい要求が突き付けられている。

 例えば、昇圧型DC-DCコンバーター(昇圧チョッパー回路)だ。これは、バッテリーに蓄えられた低電圧の電力を高い電圧に変換して、モーター駆動用インバーターに供給する役割を果たす。EVやPHEVにとって極めて重要な部材である。これを小型軽量化すれば、自動車の室内空間を広げられると同時に、一充電当たりの航続距離が延びる。このため現在、電源関連の企業や研究機関では、昇圧型DC-DCコンバーターの小型軽量化を実現すべく技術開発を進めている。

複数のインダクターを1つに

 昇圧型DC-DCコンバーターは、電源制御ICや、スイッチング素子、ダイオード、インダクター、コンデンサーは、抵抗器、放熱部品などから構成されている。この中で、最も大きな体積や重量を占めているのは、インダクターやキャパシターなどの受動部品である。つまり、受動部品をいかに小型軽量化するのか。これがカギを握っているわけだ。

 受動部品の小型軽量化を実現する常套手段としては、マルチフェーズ(多相)技術がある。これは、複数の昇圧チョッパー回路を並列に接続し、各フェーズを交互にスイッチング動作させる技術である。実質的にスイッチング周波数を高周波化したことと等価になり、受動部品を小型軽量化できる。実際、コンデンサーは小型化できる。ところがインダクターは違う。複数ある昇圧チョッパー回路のそれぞれにインダクターが必要になるため、個々のインダクターは小さくできても、全体で見るとほとんど小型化できない。

 この問題を解決すべく、名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授の山本真義氏は、トランスリンク(結合インダクターやカップルドインダクターとも呼ばれる)の開発に取り組んでいる。トランスリンクとは、2つのインダクターを1つに結合させたものだ。例えば2フェーズの場合は、E型磁気コアの脚の部分を向かい合わせて接合したものに、2つの巻線を施す(図1)。2つを1つにすることで小型化できる上に、各フェーズが交互に励磁されて、それぞれの磁束が結合によって相互に打ち消し合うため、インダクター電流のリップル成分が低減されるので必要なインダクタンス値が小さくなる。「体積は40%程度削減できる」(同氏)という。

図1 2フェーズ構成におけるトランスリンク
図1 2フェーズ構成におけるトランスリンク
2フェーズ構成の場合である。E型の磁気コアを向かい合わせに接合した形状のインダクターに、2つの巻線を施す。2つを1つにすることで小型化できる上に、各フェーズが交互に励磁され、それぞれの磁束が結合によって相互に打ち消し合うため、必要なインダクタンス値が小さくなる。このため、インダクターの小型化が実現できるわけだ。