これまでも、多くの日本企業が米国へと進出してきました。ただし、その中で成功している企業は残念ながら多くはありません。しかも、米国では排他的な風潮が広がりつつあります。そんな今こそ、真の米国進出をすべき時だと主張するのが、米I.T.A社 Presidentの岸岡慎一郎氏とリンカーズ専務執行役員およびLinkers International Corporation 取締役社長を務める桑島浩彰氏です。両氏の対談最終回である今回は、今の米国で躍進するための鍵を探ります。

岸岡氏と桑島氏の対談はこちらから(第1回第2回第3回)。

なぜ、米国法人を置くのか

I.T.A.社Presidentの岸岡慎一郎氏。(写真:加藤 康)
I.T.A.社Presidentの岸岡慎一郎氏。(写真:加藤 康)
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岸岡氏:日本は今、鉄鋼や自動車など開発期間が長いものしか残っていなくなってきていて、短期のものはやられはじめてしまってます。

桑島氏:ライフサイクルが短いものですね。

岸岡氏:今の製造業では、開発と意志決定のスピードが重要ですので、完成度を高めてから市場投入する日本企業に対しては、出遅れ感が強まってきています。

 でも、iPhoneのように、最初は多少不具合があるけれども市場が製品をもんでくれるといってどんどん出していくような方法は、日本ではなかなか許されません。ですから、海外仕様の場合は別の経営形態で、少し変えたらいいのかもしれないですね。そうすると、若い人が思い切って、ヒットを狙って打っていける。

桑島氏:ソニーの創業者・盛田昭夫さんの『MADE IN JAPAN』など、昔、米国に出ていった方が散々その苦労を書いているにもかかわらず、日系企業で、どこまであの学びが生かされているか、不安を覚えます。もう1回、ちゃんと歴史に立ち返った方がいいと思うんです。

岸岡氏:シカゴの商工会が50周年、シカゴ日米協会が86周年と、節目を迎えています。企業も組織も、戦後の追い付け・追い越せで来てしまいましたが、この節目に変わろうとしているんですね、多分。もっと米国人を向いたイベント企画、地域に根差した見直しを行うと同時に、「なぜこの事業をやっているのか」「なぜ米国法人を置いておくのか」など事業プランも見直す時期に来ているんだと思います。

 今までは横並び的あるいは出店的に出ていったんですけど、成長とともに、今後をどうするのか、なぜ出ているのかが重要になる。このように、米国企業では「Why」が非常に大事なんです。「お父さん、僕、サッカー選手になりたいんだけど」「そんなことより塾へ行きなさい」、「課長、こういう企画があるんですけど」「そんなことより今月どうなってるんだよ」。これを私は「そんなことより病」と呼んでいますが、それではダメなんです。前線部隊は非常に少ないリソースしかなく、本社からの応援もありません。しかし、ある偉大な経営者が米国で基調講演をしたとき、集まった200人に「皆さんの米国現法の最大の敵は日本本社ですよ」と言って拍手・大喝采を浴びました。金も人も出さないけど口は出すぞ(笑)という、分かっていない方々がバックに控えている、との意見が共有されていました。

桑島氏:岸岡さんと話しているとすごく伝わってくるんです。米国から日本人はこう見えていますよ、と。

岸岡氏:本気度が見えてこないんですね、米国人からすると。日本人はいなくなってしまうかもしれない、帰っちゃう可能性があると。ここでいう本気度とは、人・金・物をどこまで収斂できるか、です。それができない場合は、特に加工業の方は悩んでいらっしゃるんですけど、それこそ50社ぐらいでお金を出し合って機械を置くといった、新たな挑戦が必要かもしれないですね。

編集部:コミットメントの見せ方ということですか。

桑島氏:コミットメントや長期の視点がなさそう、ということですね。日本人は逆にそういうことを大事にしていると自分たちでは思っているような印象がありますが、米国人からはそういうふうに見えていないのではないでしょうか。

岸岡氏:ましてや、地球の裏側から「日系大手自動車メーカーに売ってるから大丈夫ですよ」と言われても、本当にものが届くとは思えないわけですよね。しかも、米国には3人しかいない連絡事務所的なものしかない。

 ビジョンを掲げることが非常に求められていると思います。キッコーマンはそれをアピールして新しい文化を生み出し、ソニーは皆さんに音楽を歩きながら聴かせたいんだ、と。これは、Steve Jobs氏がやったことでもありますね。そういったことを形や理論として、なかなか言えない。