米大統領選でドナルド・トランプ氏が当選したことで、広く脚光を浴びるようになった、米国製造業の衰退。ただし、以前から問題視されていた課題であり、バラク・オバマ大統領も対策に取り組んできました。米I.T.A社 Presidentの岸岡慎一郎氏とリンカーズ専務執行役およびLinkers International Corporation 取締役社長を務める桑島浩彰氏の対談を通して、米国の製造業回帰にまつわる動きを明らかにしていきます。

I.T.A.社Presidentの岸岡慎一郎氏(右奥)。(写真:加藤 康)
I.T.A.社Presidentの岸岡慎一郎氏(右奥)。(写真:加藤 康)
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 岸岡氏と桑島氏の対談の第1回はこちら

桑島氏:次に、米国の製造業に今、何が起きているのかをお聞きします。オフショアリングで工場が米国外に移ってしまって、ある意味、製造業は米国では「壊れた」ともいわれていますが、一方で例えばピッツバーグやシリコンバレーなどで新しい製造業も生まれつつあります。ハードウエアのメーカーも出てきていて、米Tesla Motors社がパナソニックと一緒に電池の工場をネバダ州に造ったり、電気自動車についてもカリフォルニア州フリーモントにある、トヨタ自動車と米General Motors(GM)社の合弁企業(通称NUMMI)の跡地に大きな工場を造ったりといった動きがあります。

岸岡氏:日本と似た部分があって、製造業・化学工業が中国をはじめ東南アジアにどんどん出ていってしまっています。市場に近づくことも大事なのですが、労働賃金が安いなどの理由で出ていくことに歯止めをかけるというか、目を覚まさせるために、Reshoring Initiativeの代表で、米Massachusetts Institute of Technology(MIT)のHarry Moser氏が警鐘を鳴らしています。彼は「海外市場や業界に対して本当に理解して出ていくならいいが、何も考えずに出ていったらダメだ」と言っており、細かい指導やセミナー活動を一生懸命やってきました。そして今、彼の言っていた通り、オフショアリング先の賃金が上がってきたが故に、製造業は徐々に、米国に戻ってきています。

 同時に、次の施策を考える間、15年ぐらいでしょうか、その間に高度技能者が17万人ぐらい足りないという状況になってしまいました。高度な機械を使用できる技能者や熟練工の高齢化などで、次世代が育っていないという問題です。

 昔は移民、特に東欧系に優秀な加工技能者が多くいました。シカゴでも60歳代で活躍されている方がいらっしゃいますが、あと5~10年、この状況が持つかという転換期が来ています。

桑島氏:日本もそうですね。

岸岡氏:非常に似ています。ただ、日本の技能者は日本人ですが、米国では移民の技能者がかなり高度な加工を担っている会社が多いところが違います。若い技能者が移民として来ることはなかなかないので、ものづくりの適性を若いうちに発見してもらおうと、産官学で連携して、例えば3軸/5軸の工作機械をうまく使える次世代の若者を育てようとしています。そのために、中学校・高校でのものづくりインターンシッププログラムや、簡易な設備・機器を置いたものづくりを体感できるスペースを各所に作って、次世代の若者たちに学んでもらおうといった取り組みを必死にやっています。

 それに、いくら3DプリンターなどのバーチャルなAI、IT、IoTのような技術が出てきても、ハードウエアも一緒についてくることが多い時代です。ですから、先端素材をはじめ、ハードウエアを自国内で作っていかなければならないという意識が出てきています。さらに言えば、航空・宇宙産業や防衛産業などオフショアできないものも多々あります。そういった手放せない分野を持続させるためにも、ものづくりが必要となってきているわけです。

 また、大学を卒業した人の割合は、40年前は4割以下だったと思うのですが、今や短大系を含めると8割近くに上っています。ご存じの通り、米国の大学の学費は非常に高額ですから、卒業していきなり1000万円ぐらいの年収があるぐらいの職に就いて学資ローンを返していかなければならないという事情があります。これも、産業構造に影響を与えています。