日本の製造業の復活のカギは何なのか。今回は、ドイツをはじめとする欧州の製造業との比較からその解を見つけるべく、ドイツ・ミュンヘンで創設された経営コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの日本法人 代表取締役社長の長島聡氏と、リンカーズ専務執行役員 桑島浩彰氏の対談を紹介します。ドイツ発の「インダストリー4.0」は、日本の製造業にとってどのような意味を持つのでしょうか。

ローランド・ベルガ― 代表取締役社長の長島 聡氏(右)と、リンカーズ 専務執行役員の桑島 浩彰氏(左)。(以下写真:栗原 克己)
ローランド・ベルガ― 代表取締役社長の長島 聡氏(右)と、リンカーズ 専務執行役員の桑島 浩彰氏(左)。(以下写真:栗原 克己)
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桑島氏:今回はドイツを中心とする欧州の製造業について、お話をしていただこうと思います。特に「インダストリー4.0」は日本でも盛んに言われる言葉ではありますが、どこまで理解されているのかは疑問があります。欧州では、どんな危機意識に始まって、現状どこまで進んでいるのか。それに対して、日本の製造業の立ち位置をどうとらえればいいのか、復権の鍵はどこにあるのかを議論していきたいと思っています。

 まずは、会社のご紹介からお願いいたします。ローランド・ベルガーは欧州最大手のコンサルティングファームですよね。

長島氏:ローランド・ベルガー自体は、グローバルで36カ国、約50オフィスを展開をしています。グローバルに見て「オフィスがないところはない」といった感じでしょうか。

 今、全世界的に一番注力しているのは「イノベーションを生む」ことですね。国によって名称はいろいろなんですが、要はITから、AI(人工知能)から、いろんな機能を持った人たちが集まる場を作って、そこでコラボレーションを加速させる、という活動です。様々な外部の力を結集して、大きな企業が変わるお手伝いをする。そんなことに、一番注力しようとしています。かといって、全部のプロジェクトがそうかといったら「ノー(NO)」なんですけれど、今一番成長している領域は、そこですね。

 我々はやっぱりドイツの企業ということで、そもそも製造業、自動車もそうですし、機械だったり、食品や欧州に多いアパレルだったりとか、消費財に関する製造業でのコンサルティングに強いかと思います。機能軸については、M&AとかPMI(Post Merger Integration、M&A成立後のプロセス)とか、いわゆる新しい座組みを作って、そこでしっかりと変革なりイノベーションなりを加速させる。そういったところが強みですね。欧州でM&Aの話になると、絡んでいるのは大体ローランド・ベルガー、みたいなケースが多いと思います。

桑島氏:「イノベーションを加速する」ということは、いわゆる従来のコンサルティング会社から脱皮しようとしているということでしょうか。

長島氏:そうですね。従来、「話を聞いて紙を作る」っていうコンサルティングが多かったと思うんですが、今は新しい出会いを仲介するということも、かなりやっているかなと思いますね。

 日本も、大きな動きとしては同じことをやっています。今回のリンカーズさんとの提携の話も、まさにそうですね。ただ、なんでしょうね…。恐らく、もう少し泥臭くやっているのが日本ですね。「ちゃんとした場を用意したので、誰でも来てください」みたいな形では、日本の場合、なかなか機能しないんですよ。どちらかというと、人と人のつながりを地道に作りながら…。あまりつながりを作っていると時間ばっかりかかるんですけれど…。いざ、関係が始まると密度の濃いことができる。そんなことを念頭に置きながら動いているのが、日本かもしれませんね。

 日本企業の自前主義は、相当問題になっています。世の中にあるはずのものを知らずに、自分達でまたゼロから作って時間をかけている、みたいなことが、そこらここらでありますね。そういったことがなるべくないように、同じものをなるべく早く出せるように、その支援をしていきたいと思っています。

桑島氏:なるほど。そういった意味では、製造業のオペレーションに関わる案件が、かなり多いと考えてよいでしょうか。

長島氏:そうですね。とくにオペレーションの中でも上流、企画開発ですね。何を作るか、1度しっかり固まったものを現場で実際に生み出していく、という点では、日本はそんなに遅くないんですよ。その前の段階、何をしようかとか、やれこれは大丈夫かという稟議的なもの、あとは競合のベンチマークからまずやろう、とか。そういう前段階がとっても、とっても長い。日本企業はそこをなるべく短くしていかなきゃいけないでしょうね。こうした強い問題意識を持っています。