シリコンバレーで自動車業界に起こる急激な地殻変動を日本に知らせるプロジェクト「シリコンバレーD-Lab」。そのメンバーに話を聞くシリーズの第3弾は、最終章である。実は、シリコンバレーの企業にも新しいモビリティの世界の最終形やビジネスモデルは見えていない。だからこそ、日本企業にチャンスがあると説く。 ( 1回目2回目)

左からデロイトトーマツベンチャーサポートの木村氏、在サンフランシスコ領事館の井上氏、リンカーズの桑島氏、パナソニック森氏、JETROの下田氏
左からデロイトトーマツベンチャーサポートの木村氏、在サンフランシスコ領事館の井上氏、リンカーズの桑島氏、パナソニック森氏、JETROの下田氏

桑島氏:GoogleからスピンアウトしたWaymoでもいいし、UBERでもいいし、Teslaでもいいんですけど、いわゆるプラットフォーマーの位置を取ろうとしている人たちが何を考えているか、聞かせていただけないでしょうか。

 私の感じるところ、この業界に何か“お化け”がいる。とあるプラットフォーマーと話すと、自動運転のプラットフォームを握るだけでは儲からない。それは、あくまでもインフラなので、その上のサービスで稼がなければならない。自動運転でデータを取られるからと恐れを抱かれるのは、実はまったく意図しないことであると言っているんですね。

 日本ではプラットフォーム側の人と、クルマのハードウエアの側の人との対話があまりないという印象なんですよね。だから、“お化け”が結局何なのか知ることが大事なのではないでしょうか。よく分からない“お化け”がどういうものかを見極めれば、何をすべきか分かると思うのです。

井上氏:その“お化け感”はシリコンバレーの人も持っているような気がします。今、自動運転がブームで、みんながそこに参入して、何か新しいことが起きそうだという感覚で、投資もついてきている。既にWaymoが何万マイル走っても事故がないとか、Teslaもこんな野心的な目標を発表しているという話を聞くと「俺もやってみなきゃ」という感覚になるし、乗り遅れちゃいけないという発想でやっていると思います。将来どう金を生むかまでは、恐らくGoogleでも明確には見えてないんだと思います。

桑島氏:私もそういう理解ですね。

井上氏:ただ、Googleにビジネスモデルの自由度があるとすれば、彼らはハードは作れなくても、例えば、自動運転のソフトを無料提供することもできる。Googleの別のアプリのように無料で提供してGoogleのプラットフォームにユーザを呼び込み、広告などで儲かる仕組みを作れるかもしれません。開発費をかけたものを無料で提供できてしまうオプションを持っているのが、Googleの強みなんですよね。それでも、まだGoogleはどう儲けるかを描いてはいないと思うんです。だから、まずは技術開発をしてみようということだろうと思います。自動運転を開発する意義という意味ではOEMは既存の自動車の高度化を、UBERは運転手なしでのUBERのサービスを、とプレーヤー毎に異なる価値を追いかけていると思います。

木村 将之(きむら まさゆき)
木村 将之(きむら まさゆき)
デロイトトーマツベンチャーサポート シリコンバレー事務所Managing Director 2007年、有限責任監査法人トーマツ入社、IPO監査やコンサルティングに従事。2010年、デロイトトーマツベンチャーサポートの第2創業に参画、160名体制への拡大を成功させる。2015年より、シリコンバレーに駐在し、シリコンバレーのエコシステムを活用した日系大企業とスタートアップの協業を促進。現地では、自動車関連企業、保険会社、製造業などを中心にスタートアップとの協業プロジェクトを推進。AIConference2017,Wearable Expo2017,Canada-Japan Futures Forum2016, CEATEC2015などのカンファレンスでの登壇多数。一橋大学商学部卒。一橋大学院商学研究科修士卒。

木村氏:WaymoとGoogleが考えているのは結局、自動運転のAI(人工知能)及びデータプラットフォームの提供、携帯電話で構築したアプリケーションエコシステムの水平展開にあたる「Android Auto」の提供で、全体を面で取るプラットフォームインフラの提供だと思います。

 そこは餅は餅屋で、彼らの世界かと思っています。日本のメーカーが追いかけるべきは、個別の課題の解決。携帯でいうアプリ開発にあたる、社会課題の解決が最も重要だと思います。参考にすべき例としてFordのMobility Challengeが挙げられます。この取り組みでは、色々な地域の大学や各都市の課題を解決するという観点で、世界中で実証実験を行っています。それも大学、スタートアップ、ディベロッパーなど外部とオープンに付き合いながら一緒に課題解決を行っています。日本の東北や熊本などの苦しむ地域の状況に対して、自分たちが手を挙げて、イニシアチブをとって、外部の方を巻き込みながらやっていくというのが大事なのではないかと思っています。