シリコンバレーで自動車業界に起こる急激な地殻変動を日本に知らせるプロジェクト「シリコンバレーD-Lab」のメンバーに話を聞くシリーズの第2弾。日本とシリコンバレーの認識のずれの大きさがさらに明らかになる。 ( 前回はこちら)

左から、JETROの下田氏、パナソニック森氏、在サンフランシスコ領事館の井上氏、デロイトトーマツベンチャーサポートの木村氏
左から、JETROの下田氏、パナソニック森氏、在サンフランシスコ領事館の井上氏、デロイトトーマツベンチャーサポートの木村氏
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桑島氏:2点お伺いしたいのですが。1つは、D-Labの活動でプロフェッショナルの方々とのインタビューの中で出てきた気付きについて。2点目は、日本との認識のギャップで一番危機的に感じているものは何か、です。

森氏:私は仕事でオートモーティブ業界にいるので「コネクテッド」と「シェアリング」、「EV」、「自動運転」という4つのキーワードの重要性はもともと認識していました。ただ日本では、「UBERは白タクじゃないの?」「コネクテッドって、自動車から家のエアコンを止めたり、付けたりするものじゃないの?」「ネットワークにつながれば良いんじゃないの?」と想像で議論しているケースが多く、現実とのギャップを感じたので、噛み砕いて説明するため、それぞれのプロフェッショナルに話をお聞きました。

森 俊彦(もり としひこ)
森 俊彦(もり としひこ)
パナソニック(Panasonic Automotive Systems Company of America)Senior Engineer
2003年、松下電器産業(現パナソニック) に入社、コンシューマー向けビデオカメラ事業部で組み込みソフト開発から、商品企画、機種ソフト責任者として従事。2013年、シリコンバレーにあるB2B車載事業の先行開発部門に赴任となり、大企業の中でスタートアップとコラボしたPOC開発、スタートアップ投資(最近ではDrivemode Inc.への投資)、新規事業開発の推進や、経産省の始動Next Innovator海外サポーターなどにも参画。大阪大学基礎工学部卒。大阪大学大学院基礎工学研究科修士卒。
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 ヒアリングの中では、新たな気付きが2つありました。まず1つがUBERのライドシェアリングについてです。Center for Automotive Research at Stanford (CARS)のStephen Zoepfさんから「今日乗ったUBERの車名を覚えていますか?」と聞かれました。確かに考えてみるとUBERを使った後、「今日は特定カーメーカーのシートの乗り心地が良かった」とか、「走行安定感は抜群だな」といった感想は無く、記憶に残っているのは、「今日の運転手はやたらしゃべる人だった」とか、「今日の運転手はやたら急ブレーキかける人だな」、といったことです。

 つまり、ユーザーに対する価値がクルマ自体ではなくサービスへ移った、モノからコトに移ったということなんです。UBERで重要なのは、乗り心地ではなくて、どれくらいユーザーを満足させるサービスかということです。この質問を受けたときに初めて、「シェアリング」の本当の意味が、モノからコト(サービス)に移るということだったのかと、すとんと腹に落ちました。

 もう1点が、「コネクテッド」です。今までは車メーカー側の立場から考えると、車の中から車の外にある何かをネットワーク経由でコントロールするというシナリオを考えていました。一方で、IT業界の視点からすると、クルマがネットワークにつながることで、車内はこれまで他の生活空間から切り離されていたのが、生活空間のひとつになるという発想になります。例えば家で見ていた映画が車の中で見られるとか、Facebookなどのコミュニケーションが車の中でも家同様にできる、いわゆる車と生活のシームレスなユーザー体験。これは車が中心の体験ではなく、「人を中心」としたユーザー体験です。

 その文脈の中で、Drivemode.incの古賀さんから、「自動車業界が考えるIT化というのは、自動車の中にITというファンクションを追加した」と考えるけれど、「IT業界にとっては、ITプロダクトとして自動車というプロダクトが一つ増えた」と考える、という話になりました。これは結局何を意味しているかというと、車のユーザー体験は、スマホと同じ価値観でないといけないということです。