製造業に携わる企業と企業をつなぎ、足りないピースを埋めるためのマッチングサービスを運営するリンカーズ(詳しくはこちら)。その専務取締役で米国事業を一手に担う桑島 浩彰氏が、日米間の現状に詳しい識者との対談するシリーズ。前回に引き続き、シリコンバレーのコンサルティングファーム米Blue Field Strategies社のジョン・メツラー社長は、シリコンバレーのハードウエアベンチャーの支援に、日本のものづくり企業のチャンスがあると説く。

ジョン・メツラー(Jon Metzler)氏
ジョン・メツラー(Jon Metzler)氏
米Blue Field Strategies社の創業者兼社長。カリフォルニア大学バークレー 校Haas School of BusinessにてITストラテジーと日本のテーマのクラスをもつ。出版、放送、通信、位置特定技術、デジタル・メディアなどの経験をもち、各領域にて新規事業の立ち上げに携わる。90年代に日本に滞在し朝日新聞出版局やTBS、CBS Newsで勤務。北カリフォルニアのJapan Societyの会長も務める。Linkers アドバイザー。

桑島氏:例えば、ウエアラブル健康デバイスを提供しているFitbit社のように、シリコンバレーでは最近、ハードウエアを手掛けるベンチャーが目立っています。なぜそれが今出てきたのか。よく言われるように、IoTで全部つながっていくという流れが関係するのか、ジョンさんは今の流れをどう分析していますか。

メツラー氏:私がUCBを卒業した2001年には、BtoCの領域にハードウエアのベンチャーがあまりありませんでした。投資家もそういったベンチャーには出資しないというのが当時の常識でした。ハードウエアビジネスは、マージン商売ですし、ベンチャーが戦う領域ではないという考え方でした。

 ただし、例外はありました。(PDAを開発した)Palm社も一つの事例ですし、Apple社のiPodや初代のDVRを作ったTiVo社などです。でもこれらはあくまで例外。一方でBtoBではハードウエアの事例が多くて、(無線LANアクセスポイントの)Aruba Networksなど成功事例の枚挙に暇がありません。

シリコンバレーでもかつては鬼門だったハードウエアベンチャー

 BtoCの領域で成功したハードウエアベンチャーの共通点は、端末そのものではなく、端末を通じたサービスを展開する点でした。TiVo社は、新しいハードウエアを通じたビデオ配信、つまり、配信サービスの中にハードウエアがパッケージとして付くビジネスモデル。端末はあるサービス体系の乗り物という位置付けです。

 iPod、iPhone、iPadファミリーにこの考え方は大きく影響を与えています。そのあとに端末にセンサーが載ってきた。日本製の部品を使い、シリコンバレーでデザインし、中国で製造するという今主流の形態は、とても象徴的だと思います。

 ハードウエア回帰はFitbit社の設立が起点だと思います。Fitbit社は2007年創業で今から約9年前。ご存じのようにFitbit社は歩数計でしかない。たかが歩数計、されど歩数計。原価が安くて中身はシンプルですが、サービス、ある種のライフスタイルのための手段として捉えると、その見え方が違ってきます。

 これがデバイスサービスの典型です。つまり、コンテンツを端末にくるんでユーザーに届ける。ハードウエアは何かの体験を提供するための手段。Fitbit社の製品はそれを象徴すると思います。