「インダストリー4.0」などをキーワードに進めてきた、経営コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの日本法人 代表取締役社長の長島聡氏と、リンカーズ専務執行役員 桑島浩彰氏の対談は、今回が最終回。まさに世界の製造業が変動の時期を迎える中、日本の製造業はまず何に取り組むべきなのか。その処方箋を議論します。

過去の長島氏との対談はこちら。
第1回 考える凡人集団だから日本企業に勝機がある
第2回 「インダストリー4.0」に秘められた、本当の狙い
第3回 だから日本ではオープンイノベーションが進まない

リンカーズ 専務執行役員の桑島 浩彰氏。(以下写真:栗原 克己)
リンカーズ 専務執行役員の桑島 浩彰氏。(以下写真:栗原 克己)
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桑島氏:今回はインダストリー4.0を中心にお話を伺うつもりだったのですが、経営に長期的なビジョンがみられないとか、モジュール化をテーマにした生産性の話、M&Aの話など、多岐に渡って、より経営全般の議論をしてきましたよね。改めて振り返ると、日本版インダストリー4.0に限定した話よりも、より視点を拡げた話だったということがわかります。さらにサプライヤーシステムをどう組み替えるかなど、日本には個々の企業の範囲を超えて更に大きないろいろな課題があります。そのような課題を抱える中、いわゆるオペレーションの分野で破壊的イノベーションが起こるだけでなく、たとえば自動車の分野であれば電動化や自動運転のように、そもそも産業構造全体に影響を与えるような動きもあるなか、その両方に対応しなければならない。

 まずインダストリー4.0ですよね。多分、本当に議論しなければならないのは、生産システムだけと言うより、よりミクロな、突き詰めると個人レベルまで落としてどう動くべきかを考えなくちゃいけないのかなという気がしているんです。その上でその先のリソース、プランニング、マネジメントの問題をどうするか。

 そういった中で、日本の製造業が今一番考えなきゃいけないことに優先順位をつけて3つ挙げるとしたら、何でしょうか。組織をどう入れ替えていくかという話もあれば、個々のモジュールあるいは設計のような話もあるし、生産システムの話もあれば、現場レベルで課題が見えている・見えていないという話もあって…と、いろんな課題がある。なんとかアメリカなり、ヨーロッパなり、あるいは日本の競合企業なりにキャッチアップしていかなきゃいけない今、何をやらなければならないのでしょうか。

長島氏:若干繰り返しになるかもしれないですけど、一番大事なことはありものの稼働率を上げることだと思いますよ。

桑島氏:それは自社内に限らないってことですよね。

長島氏:世の中にあるもの、日本が持っているもの、今まで培ってきたものの稼働率を上げることです。大体のケースで分からなくなるんですけれど、恐らくそれが一番大事ですよ。

 日本のホワイトカラーの生産性に関連して、企画や開発の話もしたと思いますが、やっぱり日本は生産性が低い。ただ、「ありもの」を活用せず、ゼロベースでよくそこまでいくなって思います。むしろ本来は強いんですよ。そうでなかったら、ここまでできないはずですから。それは、それぞれの個々人の能力が高いから、なんですよね。だけど、さすがにちょっとデジタル化のインパクトで、天才がやっていることのスピード感とか、徹底したありものの活用とか、向こうにやられてしまうと、そろそろかなわなくなりますよね。ですから、日本流の“ありものの稼働率をあげる取り組み”をしないといけないんだろうな、と思います。

桑島氏:そのためには、どうすればよいのでしょうか。

長島氏:繰り返しになりますが、まず、何ができるかを整理する。他の人に伝わる言葉で書く。つまり次元を上げる、ということがとっても大事でしょう。

桑島氏:それは、組織内外どちらに向けてですか。

長島氏:内外全部です。専門で閉じた表現になればなるほど、流通しないんですよ。

桑島氏:その点での“標準化”なのかもしれませんね。コミュニケーションの標準化。

長島氏:それが進んで、マーケットプレイス(交流の場)ができると話が変わってくると思いますね。そして、そのマーケットプレイスの中に自分たちがいるっていう、今までなかった刺激を受けると、皆がそれなりにこんなことやったら多分、何か面白いんじゃないか、という発想が出てくる。目の前に武器があるから。今は、場に武器がないんです。日々、足元を見て右往左往しているだけで、自分がやっていることが寂しくなっているんです。一方、武器があると、こんなことができるんだ、面白いじゃん、っていう気持ちが起きる人が結構でる。さらに協働してくる人も出てくる。