ドイツなど欧州の製造に詳しい経営コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの日本法人 代表取締役社長の長島聡氏と、リンカーズ専務執行役員 桑島浩彰氏の対談シリーズ。第3回となる今回は、欧州と日本との比較を通じて、日本が目指すべきオープンイノベーションの形を探ります。

長島氏と桑島氏の対談はこちらから。
第1回「考える凡人集団だから日本企業に勝機がある」
第2回「『インダストリー4.0』に秘められた、本当の狙い」

ローランド・ベルガ― 代表取締役社長の長島 聡氏。(以下写真:栗原 克己)
ローランド・ベルガ― 代表取締役社長の長島 聡氏。(以下写真:栗原 克己)
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桑島氏:次に、日本型インダストリー4.0の話に入っていきたいと思います。こうしたものは、それまで各国・各地のモノづくり製造業が背負ってきた歴史とか、得意なあるいは不得意な開発を経たものが組み合わさっているので、そのまま、まねできるかっていうとそうではない。ただ一方で、じゃあそのまま、まねができないから放っておくという話にしていいものでもない。

 結局、インダストリー4.0のどこを、何を、日本は吸収すればいいのか。それはプロセスみたいな話、思想みたいな話もあると思うんですが、日本のいいところ、悪いところと照らし合わせて、日本はドイツの何を見るべきなんでしょうか。

長島氏:当たり前のことを言うかもしれないんですけれど…「友達の輪を広げる」こと、そして「ありものを使い倒す」ということのような気がします。“ありもの”とは何かと言うと、装置でもいいですし、人でもいいですし、ノウハウでもいい。要は、ありものの稼働率が日本はすごく低いんです。

 ありものの稼働率が低い、イコール、せっかくあるものが使えてないということと、同じことですよ。もったいないことに、みんなゼロベースでやる。ありものが使えない理由は、友達の輪が広がらないことにあると思います。

桑島氏:心を許しあう友達の輪、ですよね。

長島氏:そうなんです。欧米は表面的にやれるんですが、日本は心を許さないとなかなか起きないですね。でも最近IVI(Industrial Value Chain Initiative)など、そういった場もできてきていると思います。それと最近、すごい変化が起きたなと思うのは、競合メーカーの人の電話番号が入るようになってきたんですよ。社名は例えばですけれど、日立さんの携帯電話にNECさんとか、富士通さんとか、そういう競合メーカーの人たちの電話番号が入る、といった具合に。今までは、日立の人の電話には日立の人しか入っていなかったと思います。恐らく、こういった変化も起きてきているし、いろいろな場ができたというのは極めて明るい兆しかなと、思っています。

桑島氏:「ありものを使い倒す」というのは、モジュール化の思想と近いのでしょうか。

長島氏:同じですよ、ある意味。一番難しいのは、ありものの定義ですね。何があるか。第1回の話じゃないですけど、ありものを伝わりやすいように、使いやすいようにしなきゃならない。交換が進むようにしていくこと。あとは、前回のマツダの話でいえば、ありものにあまり制約を付けない形にすることも結構大事ではないかと思います。この部品そのものを使えというのと、このメカニズムを使えというのでは、制約のレベルが違う。このありものを、どのレベルで流通させるかというのが、たぶんすごく大事。

桑島氏:制約のレベルをどうつけるか、フレキシビリティーをどこまで維持できるのかっていうのは、1つの重要なキーですよね。だから、面白い。ガチガチにするという話と友達の輪を広げるという話がコンパチブルであるのが、ドイツの面白いところではないかと感じます。

長島氏:ドイツはいわば、合理的だから、じゃないですか。仕事と個人のプライベートが整理できているということですよね。日本人だと、全部一緒くたですよね、ホントね。

桑島氏:うーん、なるほど。

編集部:昔、日本の携帯電話を作るメーカーは、皆、個別に部品集めしていましたよね。

桑島氏:いわば、それで業界が潰れてしまった。

長島氏:だから、同じことをみんな別々にやってはいけないということです。だって昔は「他がやってるからやろう」ですもんね。なんで皆でゼロベースからやるのか、という話ですよ。他がやっているんだったら、買ってくればいい。やっぱり欧州がすごいのは、標準化を進めて、なるべくありもの使うことで、リソース生み出し、新しいものを早く産む。そういう感覚ですよ。