「開発者が説明するのが、一番説得力があるんだ」そんな掛け声の下、ものづくり系技術職・研究職として商談に参加する機会が増えている昨今。とはいえ、営業スキルを訓練してきたわけでもない技術職・研究職にとって、いきなり商談を成功させるのは至難の業。しかも、新しい製品・技術であればあるほどうまくいっていないようで、悔しさと焦りが募るばかり――。そんなお悩みを持つ方々に向け、前回のアポ取りに続き、今回はリンカーズ 執行役員 大阪支店長の北中萌恵氏による“初回商談のコツ”をご紹介します。

リンカーズ 執行役員 大阪支店長の北中萌恵氏。(写真:加藤 康)
リンカーズ 執行役員 大阪支店長の北中萌恵氏。(写真:加藤 康)
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 前回は「知ってもらう」ことの難しさと、その対応策についてお伝えしましたが、皆さん、実際に検証していただけましたでしょうか?さて、これでようやく念願の商談にこぎつけたあなたは、重要な初回商談を迎えます。ここでぜひ注意しておいていただきたことがあります。それは、言葉で丁寧に「説明する」ことと、相手がそれを「理解している」こととはイコールではない、ということです。

 私が理解してもらうことの難しさを知ったのは、いえ、本当の意味でその難しさを理解したのは、大学3年の時に経験した教育実習の時でした。私の家族は専業主婦の母以外、全員高校教師です(しかもみんな数学)。そんな中、私も例に漏れず高校教諭の免許を取るべく2週間、母校の姫路西高等学校に教育実習生として通ったことがありました(科目は大学の学部の関係上、理科でしたが)。

 今思い出しても、あの2週間は本当に過酷で、毎晩のように学習指導要領の作成に追われ、学校では指導教員に怒られながらも必死に食らい付く…。今、もう1度あの2週間をやってみろと言われたら、かなり厳しいなと思うくらいです(現役の学校の先生たちを心から尊敬しています)。そして教育実習最終日、一緒に頑張っていた実習生全ての担当授業が終了し、全指導教員が集まる総括の場で、国語の先生がこんなことをおっしゃいました。

「あなた方は今授業を終えて、ほっと達成感を感じているかもしれませんが、あなた方が感じている達成感に見合うほど、生徒たちにあなた方の授業は伝わっていないし、生徒たちは理解していません。一言一句、練習してきたこと全てを説明したかもしれませんが、それは言葉にしただけで、相手に伝わっているわけではありません。相手に理解させるということは、それほど難しいことなのです。」

 衝撃でした。恐らくあの場にいたすべての実習生が、2週間頑張り抜いた達成感と、今まで教壇に立って行ってきた授業の中で一番の出来であったと自己満足をしていたところを、まさに後ろから頭を殴られたような感覚でした。殊に私自身に関しては、実習生の中でも本当に最後に授業を終えたばかりで、まだ高揚感冷めやらぬ状況だったため、先生からのこの言葉を聞いて一瞬で体温が下がり、ただの自己満足だったことを自覚して今度は非常に恥ずかしくなり、顔が熱く感じられたのを今でも鮮明に覚えています。

 この先生の言葉のように、こちらが熱意を込め準備をし尽して全てを説明したとしても、それが相手に伝わっているかどうか、相手が内容を正しく理解しているかどうかとは、全く別物ということなのです。