医療機器分野への新規参入や新規開発を支援する、先端医療振興財団 医療機器等事業化促進プラットフォーム事務局 専任コーディネーター クラスター推進センター 調査役の黒木俊博氏に、医療機器進出の現状について伺っています。第3回となる今回は、単なる下請けからの脱却に必要な発想を伺いました。インタビュアーは、引き続きリンカーズ 執行役員で大阪支店長を務める北中萌恵氏です。

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第1回 激化する地方発医療機器開発
第2回 なぜ医療機器ニーズを見つけるのは難しいのか

先端医療振興財団 医療機器等事業化促進プラットフォーム事務局 専任コーディネーター クラスター推進センター 調査役の黒木俊博氏。(以下写真:大亀京助)
先端医療振興財団 医療機器等事業化促進プラットフォーム事務局 専任コーディネーター クラスター推進センター 調査役の黒木俊博氏。(以下写真:大亀京助)
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北中氏:ほかに参入障壁と言いますか、参入しようという企業さんにとって課題となる点はありますか。

黒木氏:医療機器産業に入った企業さんが絶対ぶつかる壁があります。下請けとして、「これを作りなさい」と言われることってあるじゃないですか。でも、それが何を目的に使われているかっていう情報は教えてもらえない。図面だけ渡して、「これ、このスペックで作って」って。ここが一番の宝ですよ、仕事出す側からしたら。もし、そのニーズをものづくり企業側が把握したら、自分で作ってどこか売りにいける。だからメーカーはそれを絶対に言わない。例えば、胃カメラの内視鏡を作るときに、こういうスペックでものを作りたいというのがあっても、部材屋さんには何も言わないですよ。胃カメラに使うとは言うかもしれないが、どういう目的で、何を目指している、というのは言わない。

北中氏:最終的なマーケットは明かさないということですね。

黒木氏:言わないですよ。ブラインドかけながら仕事を出して、ものづくり企業さんをコンペさせるんです。そこで皆、困って「何か仕事もらっているんですけれど、なんに使うのかわからなくて、どうしたらいいんですかね」と言ってくる。こういうケース、もっと色々な角度から情報を集める必要があると思いますね。「メーカーさんはこう言うんです」と教えてもらえれば、僕らは土地勘が多少あるから「それはこういうことじゃないですか」と、アドバイスできる。「これを狙っていったほうが御社の強みが出る」とか。仕事を出すほうより優位に立たなければいけない。

 「+1」と言いますか、言われたことに対して何か1つ、自分の技術を乗せて提案する、という技術がものづくり企業さんには重要だと思います。言われたことに対して言われたことだけ返すのではダメ。結局、そこで提案できるところが成功しているんです。

編集部:言われたことを言われた通りに作るだけでは、ただの下請けから出られないと。

黒木氏:これだったら感染の問題があるから、今はこういうコーティングがいいだろう…とか、そういうのをどんどん上乗せしていくんです。

北中氏:これって企業だけの話じゃないですね。ビジネスパーソン自身でもそうですね。例えば、営業も言われたことだけしていたら、いずれ顧客との関係は終わりますよね。

黒木氏:そうですよ。医療業界では業界動向の研修やセミナーなんかが多い。もっとマーケティングとか、営業の研修をやった方が良いんじゃないか、って思うことは多いですね。

北中氏:そうですね。ほかの業界でも同じことが起こっていると思います。

黒木氏:そうだと思います。僕らね、もしかしたら自動車業界の影響が大きいんじゃないかと感じることがありますよ。考えるのはトップメーカーが考えるから、“生かさず殺さず”で言うこと聞け、みたいなね。

 下請け企業って、「逆提案したら」と勧めると、「え、そんなことしていいんですか?」とか言いませんか?「言われたことだけ、返しておけばいいんですよ」とか。やるのはコスト削減提案だけ。