日米欧による天文学史上最大の国際共同プロジェクトとして建設された電波望遠鏡、アルマ。チリ、アンデス山脈の標高5000mのチャナントール高原に並ぶ66台のパラボラアアンテナ群は、夜間のみならず昼間も宇宙の観測を続けている。電波望遠鏡は可視光を見るわけではなく「電波で見る」ため昼間でも観測が可能だからだ。拙著『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』の出版後も新たな観測成果、発見が続いていた。
国立天文台は、2017年11月2日、
「死にゆく星からの恒星風の加速、酸化アルミニウム形成が引き金-アルマ望遠鏡が明かすケイ酸塩に乏しい質量放出星の謎-」
というタイトルで観測研究成果を発表した。
アルマで見えたアルミニウム生成メカニズム
京都大学白眉センターの特定助教、瀧川晶さんらのチームが、アルマで観測したのは「うみへび座W星」だ。
太陽など質量がさほど大きくない恒星は、晩期を迎え漸近巨星分枝星(ぜんきんきょせいぶんしせい)になると周囲へさまざまな金属元素をダストとして放出するが、これまで謎があった。宇宙を構成する金属元素のうちケイ素はアルミニウムのおよそ10倍あるのに、漸近巨星分枝星の中には、ケイ酸塩ダストよりも酸化アルミニウムダストをふんだんに放出している星が多くあるという矛盾だ。
いったい、何が起こっているのか……。
瀧川さんらがアルマ望遠鏡で観測したところ、成長した酸化アルミニウムダストが星の周囲へ放出される時に、ケイ酸塩ダストの形成を妨げているメカニズムが見えたのだ。
これまでの謎解明への鍵となる大きな発見で、その成果は2017年11月2日(日本時間)、アメリカの科学誌『サイエンス・アドバンシズ』に掲載された。宇宙でのいわばアルミニウム生産の一端が見えたのである。
アルマが求めた壮絶な鏡面仕様
私たちはそういう宇宙で生産された金属元素の恩恵を受けてきた。
例えば、アルマ望遠鏡のパラボラアンテナの鏡面もアルミニウム製である。アルミニウム板を、アルマが求める仕様にまで作りあげるために、加工を請け負った中小企業や町工場は壮絶なまでの日々を味わっている。