南米チリ、アンデス山脈のアタカマ砂漠にある海抜5000mの高地に、スーパー電波望遠鏡「アルマ(ALMA)」が建設された。全66台のパラボラアンテナで構成される世界最高の巨大電波望遠鏡(干渉計)である。アルマの開発プロジェクトを1998年から取材し続けたノンフィクション作家の山根一眞氏は、2017年8月に「スーパー望遠鏡『アルマ』の創造者たち」(日経BPコンサルティング)を上梓した。今回は、天体からの極めて微弱な電波を受信する「アンテナ」の設計でポイントだった熱変形への対応を、設計を担当した三菱電機などへの取材を通じて解説してもらう。
66台のパラボラアンテナからなる電波望遠鏡(干渉計)「アルマ」は、極めて遠方の、極めて微弱な天体からの電波を受信する。ターゲットを絞り込んで捕らえる解像度(空間分解能)は0.01秒角。東京から大阪にある1円玉が見えるに匹敵する。人の眼に換算すると「視力6000」だ。
天体から届く電波の強さがどれほど微弱かについて、国立天文台の「アルマ」担当天文学者はこんな比喩で説明する。「もし月に携帯電話を置き、その電波を地球の電波望遠鏡で受信した場合、それは宇宙最強の電波になるんです」。しかも「アルマ」の究極の狙いは、極めて波長が短いサブミリ波(=波長1mm以下、周波数300GHz以上)の電波を受信することにある。波長が短くなればなるほど、パラボラ面はより高い精度が求められる。
そのため、重量およそ100tのパラボラアンテナは、全体を常に精度誤差、平均20μmに維持しなくてはならなかった。
だからといって、観測時のアンテナはじっと固定しておけるわけではない。目標天体からの電波は極めて弱いため、十分な信号を得るには何度も重ねて受信する必要がある。そのため、アンテナはせわしく首を振り続けている。観測する天体、標的位置を常に“超正確”に合わせるために、「基準星」を利用するためだ。
長年に渡って「アルマ」に携わってきた斎藤正雄さん(現・国立天文台TMT推進室教授)によれば、代表的な観測時の首振りのプロセスは以下だ。
- (1)基準星の観測時間=30秒
- (2)基準星から観測天体へ首を振る移動時間=20秒
- (3)観測天体の観測(電波の受信)時間=300秒(5分)
2013年3月、チリ共和国、アンデス山脈の標高2900mにある「アルマ・山麓施設」に設営された大きな仮設テント内で「アルマ」の開所式が催された。同国のピニェラ大統領(当時)の「スイッチオン」という司令で、大型スクリーンに、標高5000mにずらりと並んだ60台以上のアンテナ(欧州の数台は未完成だった)が一斉に首を振り、天の川銀河の中心に向けて停止する様子が投影された。
開所式に参列した私は、その動きを見てアンテナの首振りの速さに驚いた。しかし、あれほどせわしい動きを繰り返しても、各アンテナは精度誤差平均20μmを維持し続けるよう作られたのだ。