スーパー電波望遠鏡「アルマ(ALMA=Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」。南米チリ、アンデス山脈のアタカマ砂漠、海抜5000mの高地に設置された、全66台のパラボラアンテナで構成される世界最高の巨大電波望遠鏡である。アルマの開発プロジェクトを1998年から取材し続けたノンフィクション作家の山根一眞氏は、2017年8月に「スーパー望遠鏡『アルマ』の創造者たち」(日経BPコンサルティング)を上梓した。本連載ではこの取材で100人以上を訪ね歩いた山根氏が撮りためた貴重な写真を本人の解説付きでお楽しみいただく。
 今回は前回に引き続き、スーパー望遠鏡アルマがその威力を世界中に見せつけた快挙「おうし座HL星の観測写真」の背景を、国立天文台長、林正彦さんに聞く。

 「アルマ」が「おうし座HL星」を観測対象に選んだ理由。それは通常の原始惑星系円盤に比べて100倍も強い電波を出す「一番明るい」星だったからだ。では「アルマ」は「おうし座HL星」の観測でいったい何を実証し、世界の天文学者たちを涙させたのだろうか?

2014年11月、「おうし座HL星」で「アルマ」がとらえ、世界の天文学者に衝撃を与えた原始惑星系円盤の姿
2014年11月、「おうし座HL星」で「アルマ」がとらえ、世界の天文学者に衝撃を与えた原始惑星系円盤の姿
(画像・ALMA/ESO/NAOJ/NRAO)
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 電波望遠鏡の観測によって、「おうし座HL星」の周囲に原始惑星系があると考えられ始めたのは、国立天文台長の林正彦さんが大学院生の時代だった。林さんもその観測を行ったが、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の干渉計による観測で、周囲から星に向かってガスが降り積もり、まさに原始惑星系が作られていることが裏付けられたのだ。もっとも観測画像はいわばピンボケ写真状態で、円盤の形がはっきりと見えたわけではなかったが、明るくなったり暗くなったりの「変光」の理由も林理論で説明がついた。

 星は、周囲からガスが落ちてくることで生まれると考えられていました。ガスがもの凄い勢いで落ちて(秒速2、3km~200km)、出来始めた星の表面に衝突すると温度は数万度にもなり、突然、ピカッと光る。それが、明るさが不規則に変わる変光星の原因だったんです。観測と林忠四郎 京大名誉教授が提唱した「林忠四郎理論」によって、「おうし座T型星」は間違いなく若い星だとわかったんです。