スーパー電波望遠鏡「アルマ(ALMA=Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」。南米チリ、アンデス山脈のアタカマ砂漠。草木が一本もないまるで火星のような光景が広がる海抜5000mの高地に設置された、全66台のパラボラアンテナで構成される世界最高の巨大電波望遠鏡である。ノンフィクション作家の山根一眞氏は、アルマの開発プロジェクトを1998年から取材。2017年8月に「スーパー望遠鏡『アルマ』の創造者たち」(日経BPコンサルティング)を上梓した。このページでは、天文学者、アンテナなどを製造したメーカー、町工場の凄腕の職人たちなど100人以上を訪ね歩いた山根氏が、取材で撮りためた貴重な写真を本人の解説付きでお楽しみいただこう。

 アンデス山脈の標高5000mで観測を開始した「アルマ」。2013年3月の開所式からわずか1年半後に、「天文学上の革命」と言われる観測成果、「おうし座HL星」の原始惑星系円盤を子細に捉えて世界を驚かせた。

チリ、アンデス山脈の標高5000mで観測を続ける「アルマ」望遠鏡
チリ、アンデス山脈の標高5000mで観測を続ける「アルマ」望遠鏡
全アンテナの受信信号をスーパーコンピュータで統合することで信じがたいすごい「眼」になる。(写真・山根一眞)
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なぜ数ある星から「おうし座HL星」をターゲットに選んだのか?

 それにしても、私たちの太陽系がある「天の川銀河」だけでも1000~2000億個もの星がある。宇宙にはそういう銀河が1000億はあるといわれ、星の数はとてつもなく多い。その中で、「アルマ」が「おうし座HL星」という天体を観測ターゲットとしたのは、なぜなのだろう。そこを観測すれば大きな成果が期待できると考えたからこそ、観測対象を絞り込んだに違いないと、ふと思った。このことは、拙著『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』の取材では聞いていなかった。

 2014年11月、国立天文台が「おうし座HL星」の原始惑星系円盤の観測成功を報じたプレスリリースでは、21年前の1993年に日本が野辺山宇宙電波観測所の電波望遠鏡(干渉計)で観測した同じ「おうし座HL星」を観測した画像を並べて掲載、いかに「アルマ」の観測能力が進化したかを伝えていた。そこで、21年前に「おうし座HL星」の観測で成果をあげた現・国立天文台長、林正彦さんにあらためて聞いた。

林正彦 国立天文台台長
林正彦 国立天文台台長
1959年、岐阜県生まれ。1981年、東京大学理学部天文学科卒。1986年、同大学院で博士課程修了。国立天文台教授、国立天文台ハワイ観測所所長、東京大学教授を経て2012年から国立天文台台長。(写真:山根事務所)
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