2012 年3月4日、初めて訪ねた「アルマ」の山麓施設。日本製アンテナの内部で「ここから138億年前の電波が」と語る国立天文台教授(現・国立天文台TMT推進室 特命専門員)の稲谷順司さん。(写真:山根一眞)
2012 年3月4日、初めて訪ねた「アルマ」の山麓施設。日本製アンテナの内部で「ここから138億年前の電波が」と語る国立天文台教授(現・国立天文台TMT推進室 特命専門員)の稲谷順司さん。(写真:山根一眞)
[画像のクリックで拡大表示]

史上最大の電波望遠鏡「アルマ」

 チリ、アンデス山脈の標高5000mに広がる草木が1本もない広大な砂漠、チャナントール高原。ここに、日・米・欧が国際共同で建設した66台のパラボラアンテナが並ぶ。

 観測の目的によって各アンテナは移動可能で、最大16kmのエリアにレイアウトされる。いっぱいに広げれば山の手線の大きさのレンズを持つ巨大望遠鏡になる。全アンテナが同時に同じ天体を狙い、その電波を受信。66台が受信した信号は、光ファイバーで同じ5000mに設置したスーパーコンピュータ(相関器)に送られ、熱雑音だらけの信号から狙った天体の姿を描き出す。

 これが、複数のパラボラアンテナを組み合わせて観測する「干渉計」、「アルマ」なのだ。

 それは、東京から大阪に置いた1円玉が識別できる「ハッブル宇宙望遠鏡の10倍の解像度」であり、これまでの電波望遠鏡の100倍の感度をもち、データをすくい出す「相関器」の分光能力は、これまでの電波望遠鏡システムの10倍の能力が実現。まさに「スーパー望遠鏡」と呼ぶに相応しい

 建造するのは不可能とさえ言われたこの壮大な天空の天文台。長年憧れていたその現場をこの目で見ようと現地を訪ね、標高2900mにある「アルマ」の山麓施設施設を4輪駆動車で出発したのは、2012年3月5日のことだった。長年憧れていた、地球で最も宇宙に近い場所に作られた巨大な宇宙を見る眼……。

その「視力」(角度分解能力)は最大6000

 東京を発つ前に「高度計」を探したが、何と、登山用品店には5000mまで計測できる高度計は売っていなかった。日本人の登山愛好家が5000mの山に登ることはほとんどないため、5000mまで測る必要がないからだった。幸い、iPhoneのアプリの高度計が5000mまで対応していることを知り、インストールしておいた(大気圧で高度を測定するのではなくGPSによる地図情報で高度を表示するもののようだ)。

 四輪駆動車が「アルマ」のために造成された未舗装道路を登っていくにしたがい、サボテンなどの植物の姿が見えなくなり、砂と石ばかりの世界になった。高度計アプリを見ると、すでに4000mを超えている。息苦しさを感じ、安全のため指にはめたパルスオキシメーター(血中酸素濃度計)を見ると、数値が75、70、65と小さくなった。「90以下になると危険」と聞いていたので、あわてて酸素スプレー缶を口に当てて、深呼吸する。「うまい!」。