日経コミュニケーション2016年6月号pp.52-60の5Gのすべて「NICT/ATRによる無線の横断利用、上智大による広帯域移相器の小型化」を分割転載した前編です。

日本の5G(第5世代移動通信システム)を推進する5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム)のキーパーソンが、日本を含めた世界の動向を、研究開発や標準化、ユースケース、アプリケーションといった様々な観点から解説する「5Gのすべて」。今回は、NICT/ATRの取り組みを紹介する。

 5Gに求められる高い性能要求と様々な利用シナリオは、単一の無線システムで実現することは極めて困難と言える。そのため複数の異なる無線システムで構成するヘテロジニアスネットワークによって達成することになるだろう。無線システムに応じた機能の多様性と周波数帯に応じた伝搬特性を活用する。

 NICT(情報通信研究機構)とATR(国際電気通信基礎技術研究所)は、管理者の枠を越えて複数の無線システムを横断的に利用するアプローチに着目している。今回は無線システムの協調利用と周波数の共用利用の観点から、5Gを実現する研究開発の取り組みについて紹介する。

管理が異なる無線システムの協調利用

 5Gは、現状の4Gシステムやそれを拡張して高速化と効率化を図った新たな無線システムを用いて、高速移動性を担保しつつ広域のカバレッジを提供する。そこに無線LANやミリ波帯を用いた無線システムが、エリアは小さいながら高速通信サービスを提供し、統合されていくことになるだろう。

 前者は携帯電話事業者が運用するネットワーク(事業者網)、後者は通信事業者が新たに展開する無線システムに加え、それ以外の組織や個人が運用するネットワーク(自営網)となる。自営網の例としては無線LANのほか、公共ネットワーク、あるいは、道路、鉄道、航空機やその他施設などの管理者が用途ごとに構築する無線システムなどが考えられる。

 この際、限られた電波資源を利用して効率的な通信を実現するためには、各無線システムに割り当てられた周波数の範囲でそれを最大限に活用するというアプローチがある。