日経コミュニケーション2015年10月号pp.58-65の5Gのすべて「高速化だけじゃない無線アクセス技術、超低遅延や大量接続も実現」を分割転載した後編です。 前回はこちら

「5Gのすべて」は、日本の5G(第5世代移動通信システム)を推進する5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム)のキーパーソンがリレー形式で執筆する連載コラムである。日本を含めた世界の動向を、研究開発や標準化、ユースケース、アプリケーションといった様々な観点から解説する。今回は、5Gを構成する無線アクセス技術のうち、C/U分離や非直交多重、多素子マルチアンテナなどの適用を紹介する。

 今回は、5Gの無線アクセス網が利用者に提供するサービスや機能との関係の観点から、5Gの新たな無線アクセス網を構成する技術のいくつかを取り上げ、ARIB 20BAHでの検討成果を中心に説明する。

C-planeとU-planeを分離

 通信トラフィックは年々その量が増えるだけではなく、1日(24時間)の中でも大きく変動しており、屋外と屋内でもその振る舞いが異なるなど、利用シーンに応じて大きく変動する(図8)。

図8 移動通信トラフィック(屋外/屋内)の1日の変動例
図8 移動通信トラフィック(屋外/屋内)の1日の変動例
ARIB 2020 and Beyond Ad hoc白書を基に作成。
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 このような通信トラフィックを柔軟かつ効率的に収容する技術として、以降に示すように、大きく2つの無線信号に分離する。一つはユーザー信号の伝送を行う利用者信号通信(User-plane、以下U-plane)である。もう一つは、セルラーシステムとしての通信接続・移動管理(例えばハンドオーバ制御)など移動通信端末の制御を行うための制御通信(Control-plane、以下C-plane)だ。高速伝送が必要なU-plane信号は広帯域のセンチ波・ミリ波帯信号を使ってスモールセル基地局との間の比較的短い距離でやり取りする。C-plane信号は従来の☞UHF帯などを使ってより広いエリアをカバーするマクロセル基地局から伝送を行う。このようなC/U分離の技術を検討している(図9)。

UHF▶
Ultra High Frequency。極超短波。300M~3GHz帯を指す。
図9 C-planeとU-planeを分離した無線伝送
図9 C-planeとU-planeを分離した無線伝送
ARIB 2020 and Beyond Ad hoc白書を基に作成。
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 実際の構成では、スモールセル基地局を高速・広帯域伝送トラフィックが発生する地域に配置する。スモールセルの間を移動する移動端末の接続制御や移動制御は、スモールセル群を統括するマクロセルから実施する。こうすることで、システム全体では安定した高速通信と高いシステム容量(大量の通信トラフィックの収容)を実現する。

 またスモールセル群全体の無線リソースの割り当てをマクロセルから統合的に行うことで、時間的な通信トラフィックの変動などにも柔軟かつ効率的に対応することが可能になる。