日経コミュニケーション2015年10月号pp.58-65の5Gのすべて「高速化だけじゃない無線アクセス技術、超低遅延や大量接続も実現」を分割転載した前編です。

「5Gのすべて」は、日本の5G(第5世代移動通信システム)を推進する5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム)のキーパーソンがリレー形式で執筆する連載コラムである。日本を含めた世界の動向を、研究開発や標準化、ユースケース、アプリケーションといった様々な観点から解説する。今回は、5Gを構成する無線アクセス技術のうち、センチ波/ミリ波帯の活用などを紹介する。

 今回と次回のテーマは「5Gを構成する無線アクセス技術」である。これまでの連載では、5G(第5世代移動通信システム)の概要と国内外の動向、期待されているサービスなどを取り上げた。併せて、そのサービス実現に必要となるシステムの要件や主要性能(Key Capabilities)の概要なども示した。

 今回は、これまでの連載で解説してきた5Gシステムに求められる要件を実現するための無線アクセス技術と、第5世代モバイル推進フォーラム(以下、☞5GMF)における検討状況を概説する。

5GMF▶
The Fifth Generation Mobile Communications Promotion Forum。5Gの早期実現を図るための調査研究および関係機関との連絡調整を目的として2014年9月末に設立されたフォーラム。

高速、広範囲、超低遅延、大量接続

 「5Gの目指すもの」を無線アクセス技術の側面から眺めると、いくつかの課題が見えてくる。ここでは主なものを3つ紹介する。

 (1)より高速のデータ伝送をより広範な利用環境で提供:4G(第4世代システム)よりも高速のデータ伝送を提供する。そのうえで、スタジアムのような何万人もの人が一箇所に集まっている環境でもストレスなく使えるようにする。その逆に、利用者がまばらなエリアでもサービスを提供する。こうしたサービス環境を実現するためには、システム容量の増大、高速移動環境における一層の通信品質向上、低消費電力化や設置コスト・運用コストの効率化が求められる。

 (2)超低遅延伝送を実現:確実・安全な遠隔実時間制御などを実現するための遅延の極めて短い伝送が求められる。

 (3)非常に多数のデバイスを収容:社会基盤の維持・管理に必要な監視情報を収集するためには、非常に多数の場所に配置したデバイスからの定期的なデータ通信が必要となり、それを長期間にわたって効率的・安定に行う機能の提供が求められる。

 以降ではこうした課題を解決する無線アクセス技術について解説する。5Gの無線技術に関する検討は一般社団法人 電波産業会(ARIB)が先行した。同会の検討結果は2020 and beyond ad hoc(20BAH)グループが☞白書としてまとめている(以下、ARIB 20BAH白書)。現在は、その活動を引き継いだ5GMFが無線アクセス技術全般にさらに検討を進めている段階にある。そこで今回は、ARIB 20BAH白書の成果も交えて、2015年10月時点の状況を紹介する。

白書▶
白書のタイトルは「Mobile Communications Systems for 2020 and beyond」(URLはhttp://www.arib.or.jp/english/20bah-wp-100.pdf)。

 なお、いわゆるコアネットワークを含む通信ネットワーク全体の構成技術やアプリケーション、サービス領域までを俯瞰した実現技術に関しては、次々回以降の連載で解説する予定である。