日経コミュニケーション2015年9月号pp.58-65の5Gのすべて「時々刻々と変わる要件に柔軟に対応、無線技術とネットワーク技術が連携」を分割転載した前編です。

「5Gのすべて」は、日本の5G(第5世代移動通信システム)を推進する5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム)のキーパーソンがリレー形式で執筆する連載コラムである。日本を含めた世界の動向を、研究開発や標準化、ユースケース、アプリケーションといった様々な観点から解説する。今回は将来目標として5Gが目指すものやサービスの概要を紹介する。

 第5世代移動通信システム(5G)が目指すサービスや要件については、日本をはじめとする世界各国・各地域における多くのフォーラムなどで議論が進み、既に一通りの検討結果が出そろった感がある(5Gに取り組む主な組織・団体については、前回の表1にまとめたので参照してほしい)。

 そこで今回は、日本国内の5Gを巡る活動として、5GMF(The Fifth Generation Mobile Communications Promotion Forum:第5世代モバイル推進フォーラム)とARIB 2020 and Beyond Ad hoc(20B AH)の検討結果を中心に、5Gが目指すもの、サービス、要件と主要性能(Key Capabilities)などの概要を解説する。ITU-R(International Telecommunication Union Radiocommunications Sector:国際電気通信連合 無線通信部門)における最新の検討状況なども紹介する。

無線技術と有線ネットワークの検討
「Extreme Flexibility」で一致

 5Gの時代を迎えると、ネットワークに対するアプリケーションの要件はますます多様になり、時間や場所に応じて大きく変動する。4G以前と比較して、トラフィックの分布が均一でなくなり、集中度も高くなることが予想される。5Gのネットワークに求められる能力は、多様化が進み、さらに時々刻々と変化する要件に対して柔軟に対応することである。

 5GMFでは当初、無線アクセスネットワーク技術と有線ネットワーク技術それぞれについて、専門の委員会が個別に検討を始めた。その後、検討結果を持ち寄ったところ、図らずも両委員会ともに「Extreme Flexibility」を5Gのキーコンセプトとして掲げることになった。

 技術委員会では、5Gネットワークの設計に役立てるために、利用形態や要件が時間や場所によって動的に変わる「ユースシーン」の解析を進めている。単なる静的な「ユースケース」にとどまらず、要件がダイナミックに変化するケースの分析を進めている。

 さらに無線ネットワークについては、機能や性能が異なる様々な無線アクセス技術を有機的に活用する「ヘテロジニアスネットワーク」(Heterogeneous Network)を検討中である。これは5G実現の要となる。

無線とネットワークの連携で品質確保

 5Gで想定する多様な要件を満たすには、無線ネットワークばかりでなく、コアネットワークを含めた5Gネットワーク全体の連携が必須である。

 5GMFでは、低遅延、データレート、デバイス数、移動度、容量などのエンドツーエンド(E2E:End to End)の品質を確保するために、無線とコアネットワークがそれぞれ必要な技術を採用し、さらに両者が連携を図りつつ実現することを目指している。