イントランスHRMソリューションズ 代表取締役 竹村孝宏氏
イントランスHRMソリューションズ 代表取締役 竹村孝宏氏
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 人はいったん「こうだ!」と思ってしまうと、その考えにとらわれてしまうものです。自分の思い込みに縛られてしまうと、目の前のことが見えなくなったり、過去の経験に頼って実状に合わない判断ミスをしてしまったりする可能性があります。

 次のような話があります。インドで飼いならされた象は、細い杭と1本のロープでつながれています。象の力であれば簡単に逃げることができそうな小さな杭です。でも、象はまったく逃げようとはしません。インドでは象は子供の時に足にロープを巻いて頑丈な杭につながれます。その時は逃げ出そうともがきますが、頑丈な杭はびくともしません。やがて無理だと諦めて2度と暴れなくなります。

 「逃げられない」ということを学習した象は、小さな細い杭につないでおくだけでも逃げ出そうとしなくなります。象の思考の中に「この杭からは逃げ出せない」という意識が定着したからです。

 私たちは、過去の経験に基づいて将来の状況を予測することに思考を向けます。すなわち、過去にあったことは、今後もずっと続くだろうと考えてしまいます。ほとんどの人が無意識に、過去の延長線上に将来があると考えるのです。

 情報革命の中で、世界は変わりました。たった数カ月で、さまざまなことが激変します。加えて、ありえないと思っていたことが起こります。ありえないと思っていたことが突然発生すると、予測できないほどの強い衝撃があるというのが、英国の認識論学者ナシム・ニコラス・タレブの提唱した「ブラックスワン理論」です。

 そもそも欧州では白鳥は白色だけと信じられていました。ところが、誰もがありえないと思っていた黒い白鳥がオーストラリアで発見されたのです。以来、ありえないことや起こりえないことが起きたときの影響力が大きいことを「ブラックスワン」と呼ぶようになりました。

 例えば、自然災害や同時多発テロ、英国のEU離脱、東日本大震災など、人々の世界観や取り組み方を一変させる出来事がそれにあたります。あらゆる変化は、私たちが思い込んでいる変化よりもずっと大きく、絶え間なく続くのです。

 こうした変化に対応するには「思い込み」が障害になります。思い込みは外して考えなければなりません。今これから判断することについて、過去はこうだったかもしれないが将来も本当にそのように続くのか、と疑問を持つことが必要です。

 身近なビジネスシーンにおいても思い込みはたくさんあります。例えば、プレゼンテーションで1度ミスをしたら、私は大勢の前でしゃべるのは苦手だと考えてしまうとか、チームが何か新しいことや困難なことに挑戦するとき、経験豊富なベテランは、過去の経験から「これは無理だろう」「やっても意味がない」と判断してしまう、といったものです。では、どうすれば思い込みにとらわれずに行動することができるのでしょうか。思い込みをなくすためにすぐできる方法を3つご紹介します。

自分以外の視点を増やす

 思い込みの強い人は、自分だけの視点でものごとを見たり、他人と接したりしがちです。これでは常に自分の考えが優勢となり、ものごとを1つの側面でしか見ることができません。そうすると思い込みがどんどん強くなってしまいます。

 そこから逃れるためには、自分以外の視点を持つことが重要です。そのためには、いろいろな角度からの情報を集めることが必要です。自分で得た情報や人から聞いた情報、メディアから得た情報など、情報チャネルを増やしましょう。そうすれば、さまざまな角度から見た情報に触れることができます。

 意識的に情報ソースを増やすことで、自分だけの視点にとらわれてしまうリスクを低減することができます。思い込みを外すためにはさまざまな手段を使って外部からの刺激を得ることが必要なのです。