伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、IoT検定制度委員会メンバー
伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、IoT検定制度委員会メンバー
[画像のクリックで拡大表示]

 今回でこのコラムも30回を数えました。節目を迎えて今回より6回に渡り、「第4次産業革命時代の夜明け」をテーマに2018年の製造業がどのような年を迎え、どのような技術が必要となるのかについて書きたいと思います。

2017年はどのような年でしたか?

 2017年もあと少しとなりました。皆さんはどのような1年を過ごされたでしょうか? 製造業のニュースを振り返ると、東芝の不正会計問題や神戸製鋼所をはじめとする品質データの偽装問題など、不祥事に関する話題が先行してしまったことは非常に残念です。今年の1月に行った講座の中で、私は「2016年がIoT(Internet of Things)元年であり、2017年は各企業で差のつく年になる」と述べました。実際、どうだったのかを振り返ってみましょう。

企業によって差はついたのか?

 予想通り、2017年にIoTのスタートを切れた企業と切れなかった企業とで差がついたと思っています。では、スタートを切れた企業が今どのような状況にあるのかと言えば、まだ初期のレベルだと思います。次のような感じです。

・IoT機器を導入し、センシングを始めた
・人工知能のソフトウエアを導入し、実証実験を始めた

 要は、IoTや人工知能は「やってみて初めて分かる課題」というものが多くあるのです。そのため、まだ初期段階であったとしても、スタートを切ることに価値があるのです。私は、2017年にスタートを切った企業の中から2018年に結果を出す企業が現れると考えています。

スタートが切れなかった企業の原因は?

 では、スタートを切れなかった企業は、一体何が原因なのでしょうか。一言で言うと「危機感の欠如」だと思います。具体的には、IoTや人工知能、ロボット、ブロックチェーンといった第4次産業革命のコア技術について、「自分たちが利用するのは5〜10年先の話。今の自分たちには関係ない」と考えていることが、危機感の欠如の根底にあります。

 既に企業間で差が出始めているにもかかわらず、2018年も2017年と同じく動かないままでいると、その企業は取り返しのつかない状況になると断言してもよいでしょう。その危機的状況は財務諸表を眺めているだけでは実感できないと思います。最新技術に関する情報をニュースや講座などを通して知り、初めて大きな危機を現実のものとして理解することができるのです。

 例えば、2017年に人工知能が世界でどれほど進化したかをすぐに答えられる人はいますか? 2017年は歴史上、最も人工知能が進化した年といっても過言ではありません。

・囲碁の世界チャンピオンを破った「AlphaGo」よりも強い「Alpha Go Zero」を米Google社傘下の英DeepMind社が開発。強化学習だけで人間の手を借りずに強くなった。
・「Open AI」というプロジェクトが、戦略シミュレーションという多数のコマンドから成るリアルタイムの複雑なゲームで、人工知能を使って人間のチャンピオンを破った。
・Google社の「AutoML」というプロジェクトが、新しいパラメーターを自動で作り出すことで、人工知能からより精度の高い子供の人工知能を作ることに成功した。
・自動運転の技術では、既にリアルタイムで人間や標識、クルマ、自転車などを区別し、それらまでの距離を判別できるようになった。

 人工知能の分野では今、実にさまざまな進化が起きているのです。こうした最新情報を常に把握し、自分たちが今後置かれる状況を想定して、今取るべき道を適切に判断することこそが、今の経営者や技術者に最も求められるスキルだと思います。