伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、IoT検定制度委員会メンバー
伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、IoT検定制度委員会メンバー
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 製造業がIoT(Internet of Things)を導入することで得られるメリットは何でしょうか。データの「見える化」や、人工知能を活用したスマート工場の実現など、いろいろと考えられると思います。しかし、実はメリットに感じにくいかもしれません。というのも、電気制御やセンシングを既に実施している工場が多く、その意味ではIoTは製造業にとって特に新しいことではないからです。

 ただし、全てをコンピューターで制御している工場はごくわずか。一部の工程は自動制御しているものの、その他の工程に関しては手動で行っている工場も多く存在します。また、センシングを行っていても、そのデータをモニターに表示するだけで、データベースへの保管を行っていない場合も多く見られます。

 IoTの実践に関して先進的な業界であるはずの製造業が、実は、制御装置やセンシングを導入しながら十分に活用できていないのです。今回は、その原因と解決方法について考えてみたいと思います。

PLCの代わりとしてのArduino

 中小企業の工場を中心にPLC(Programmble Logic Controller)の代わりとして「Arduino」を利用する事例が増えています。PLCは温度や湿度、距離などのセンシングと、モーターやシリンダー、リレーなどの制御を行います。IoTという言葉を使う前から製造業などではIoTの中核を担ってきた制御装置です。

 ところが、特に中小企業の工場がPLCを工程全体に導入できない理由がいくつかあります。その1つは価格が高いことです。最近は徐々に下がってきてはいるものの、本体価格は10万円以上で、いろいろなオプションユニットを付けると1台50万円を超えることもあります。そのため、全工程への導入を断念する工場が多いのです。

 もう1つの理由は人材不足です。一般にPLCを制御するためにはラダー言語と呼ばれる、ソフトウエア開発では使われないPLCにおける電気記号を使ったプログラミング言語を使って制御する命令を記述しなければなりません。このラダー言語を書くことができる人材の高齢化が進んでいます。しかし、若い世代に学習させようにも、教育を受けさせなければならないことが多くの製造業を悩ませています。若い世代は昔よりも転職する割合が高いため、せっかく教育を受けさせても辞めてしまう可能性があるからです。