伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、サートプロ IoT技術講師、IoT検定制度委員会メンバー
伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、サートプロ IoT技術講師、IoT検定制度委員会メンバー
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 「人工知能の登場で社会が激変する」と、最近よく言われます。しかし、具体的にどう変わるかについての話はあまりないようです。そこで、実際に人工知能を使って分析などを行っている経験から、工場がこれから5年以内にどのように変化するかについて予測してみたいと思います。よく耳にする「職が失われる」といった乱暴な話をするつもりはありません。どこがどのように変わり、その結果、関わる人がどういうふうに対応する必要があるのかについて述べていきたいと思います。

選別作業はほぼ自動に

 人工知能が最も得意としているのは、画像などによるクラス分類です。クラス分類とは、過去のデータから「もの」がどのグループに該当するのかを判別することです。例えば、トマト。トマトを、「優」「良」「可」という3つのグループに選別するとしましょう。まず、各グループに該当するトマトの写真を人工知能に学習させます。学習した人工知能は、生産されたトマトが優、良、可のどのグループに該当するかを判断し、それによってコンベアーの動きを変えます。すると、全自動でトマトを品質ごとに分けることができるのです。

 人工知能を使わなくても、画像を分析して「もの」をグループに分けるという事例は、これまでもいくつかありました。しかし、どれも人間が考えたルールで判別するものでした。人間が考えたルールというのは、トマトの場合で言えば、大きさや光り具合、形、色などです。この場合、90%くらいの精度は得られるのですが、ルールに該当しないものは、いつまで経っても間違ったグループに分別してしまいます。これに対し、人工知能は「間違ったもの」を再学習させると、それを踏まえて新たな判定で分別します。従って、精度が98〜99%に高まる可能性があります。

 ただし、精度が99%になったとしても、間違いは起こります。そのため、最終的にチェックを行うのは人間です。ただし、そのチェックは少人数で、全体を見渡しながら異常なものだけを見つけるという簡単なものです。チェックは不要という判断もあるかもしれません。しかし、人工知能の不具合がゼロでないとすると、「最終的な責任を人間に持たせる」という考えは、なかなかなくせないのではないでしょうか。

 また、「精度が100%ではないのなら、最初から人間が行えばよいのではないか」という意見もあるでしょう。でも、人間が行っても100%の精度は得られません。メリットは、人工知能を使うことで、人間にかかる過剰な労働負荷を減らせるというところにあります。

ロボットが自律的に移動

 部品や製造途中の仕掛品の移動も大きく変わります。1日の作業工程の管理は、人工知能が回帰分析などの手法を使い、注文状況や従業員の状態などを踏まえて自動的に計算を行います。これにより、最適と思われる工程を組むのです。

 工場内は車両ロボット(車両が付いていて自立走行が可能な産業用ロボット)が自律的に移動し、さまざまなものを動かします。レール上を走って部品を移動させるロボットを導入している工場はこれまでも存在しましたが、自律的に移動するロボットを使っている工場はありませんでした。さらに、今後は自動運転技術が進み、カメラ画像や距離センサーなどを使って設備との干渉やロボット同士の衝突を回避しながら工場内を自由に動き回るロボットが活躍することでしょう。

 私は、現在話題になっている自動運転車が公道を走るよりも早く、工場内を小型の車両ロボットが動き回ると予測しています。