伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、サートプロ IoT技術講師、IoT検定制度委員会メンバー
伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役、サイバー大学客員講師、サートプロ IoT技術講師、IoT検定制度委員会メンバー
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 「IoT(Internet of Things)に取り組もうと手始めに企業へ見積もりを依頼したところ、とても支払えない金額を提示された」──。こうした話を最近、私はよく耳にします。というのは、経済産業省が実施する地方版IoT推進ラボのメンターとして各地方を駆け回っているからです。IoTの重要性に気付く半面、導入費用の高さに驚く地方の人がとても多いのです。

 これほど高額になる背景には、いくつかの理由が考えられます。まず、IoTシステムを構築する企業側に数的に十分な人材がそろっていないという状況が挙げられます。人材が少ない中でエース級の人材を出すとなると、企業側も高額にせざるを得ないのです。その上、IoT化には未経験の部分が多く、どれくらいの工数が必要になるのか予測が難しいという理由もあります。

 しかし、高いコストが掛かることを理由にIoTの導入を見送った場合、競合企業に新しいビジネスチャンスを持っていかれてしまう可能性が大いにあります。こうした背景から、「身の丈IoT」といった用語が登場しました。簡単に説明すると、中小企業でも無理なく対応できるほど低コストで導入するIoTを意味しています。でも、私は少し違う解釈をしています。

自ら手掛けること

 低コストでIoTを導入できることは非常に良いことです。しかし、それを実現するには、自力で取り組む必要があります。すなわち、自分たちで学び、自分たちで手を動かして、自分たちで実証実験を行う。これが、私の考える「身の丈IoT」です。

 こう聞くと、「十分な知識のない人たちが、本当に身の丈IoTに対応できるのか?」 と多くの人が疑問を抱くことでしょう。でも、その答えは「YES」です。専門家をうまく使ってアドバイスを受ければ、それほど知識のない人でも十分に対応できると私は確信しています。確かに、IoTに関連するあらゆる分野でアドバイスが可能な専門家は少ないのですが、各分野の専門家であればたくさんいます。地方版IoT推進ラボのように、経済産業省や地方自治体が企業と専門家のマッチングを行なっているので、相談してみるとよいと思います。

 身の丈IoTに対応する上で、もう1つ必要なことは、手軽なツールを使いこなすことです。これについては、本コラムで既に紹介しています。ハードウエアに関して言うと、IoTデバイスである「Arduino」や、シングルボードコンピューターの「Raspberry Pi」といった低価格の制御装置を使えば、1万円以下で通信機能を備えたセンサーデバイスなどを作成可能です。書籍も多く出版されているので、それらを読んで学ぶこともできます。また、これらの実践方法を教える教育もあちこちで実施されているので、そうした講座に参加することもお勧めです。(編集部注:伊本氏が講師を務める講座には「体系的かつ体験的に学べる製造業向けIoT講座【入門編】」「IoT推進リーダーに必要な技術が身に付く製造業向けIoT講座【実践編】」があります)。

 プログラミングも必要です。プログラミングといっても、実証実験の段階ではそれほど大規模なプログラムを組む必要はありません。例えば、最近は人工知能を使った画像認識が流行っています。これを実現する場合でも、今は非常に優秀で、しかも無料で利用できるライブラリーがあります。そのため、わずか数百行のプログラムで十分に実証実験が可能です。

 つまり、身の丈IoTに対応する秘訣は、「専門家のアドバイス」と「教育」を上手に利用することにあるのです。