伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役 兼 コーデセブン CTO、サートプロ IoT技術講師、IoT検定制度委員会メンバー
伊本貴士=メディアスケッチ 代表取締役 兼 コーデセブン CTO、サートプロ IoT技術講師、IoT検定制度委員会メンバー
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 製造業を中心に「インダストリー4.0」への注目が日々増しています。インダストリー4.0は、ドイツ政府と同国の産業界が、「製造業は今後どう進化すべきか」という問題について考え、それを踏まえて立案した計画のことです。

 単なる計画なのですが、内容を見てみると非常に先進的で合理的な考え方をしています。そのため、実現すれば新しい時代を切り開くだろうということで世界中から注目を集めているのです。

 インダストリー4.0は、IoT(Internet of Things)という技術の活用像を具体的に示したとも言えるパイオニア的存在です。そのため、2016年頃からさまざまなメディアがインダストリー4.0という言葉を取り上げています。

 ところが、多くのメディアがかなり概要的な部分だけを書いているためか、表面的な情報が世間にあふれているようです。結果的に「インダストリー4.0」に対して大きな誤解をしている人が少なくありません。

 その誤解を取り除くために、今回はインダストリー4.0が実際には何を目指しているのかについて書きたいと思います。

コスト削減という誤解

【誤解1】
「インダストリー4.0は、製造コストの一層の削減を実現することを目標としている」

 これが最も多い誤解です。「製造業のシステム=製造コストの削減」という固定観念が招く誤解でしょう。正確に表現すれば、インダストリー4.0が目指しているのは「効率化」です。効率化とコスト削減は、似ているようで同じものではありません。

 もちろん、効率化すれば結果的にムダなコストを削減できます。しかし、インダストリー4.0の効率化は、現在の製造方法やサプライチェーンをそのまま利用してコスト削減を目指すものではありません。新しい仕組みを作った上で、生じるムダを排除することを目標としているのです。新しい仕組みとは大きく3つあります。

[1]マスカスタマイゼーション
顧客の細かい要求に対して個別のカスタマイズを行いつつ、効率良くムダなく多くの製品を生産する。

[2]自律制御機能
製造工程に変更が生じた場合に、各工程の機器が自律的に対応してムダを排除する。

[3]予知保全
機器の故障などを予測し、あらかじめ部品交換などに対応しておく。危険な作業を全て自動化し、常に監視することで事故が発生しないようにする。これらを通じて不測の事態を排除し、生産工程の停止がゼロになることを目指す。

 つまり、製造に関する新しい考え方を採用することで、需要や生産量、環境などさまざまな変化に迅速に対応する。その上で、さまざまな仕様の製品を共通ラインで効率良く生産する──。これが、インダストリー4.0の目指す目標です。現在、多くの企業が行なっている「単一製品大量生産」とは製造に対する考え方が根本的に違うということを、最初に理解しておく必要があります。