企業の枠を超えて自動車産業の将来を考える「自動車100年塾」は、2016年6月に一般社団法人化したのに伴い、本格的な活動を開始する。その第1弾として、リアル開発会議とタッグを組み、2016年10月から「自動車産業改造計画」をスタートさせる。

 自動車100年塾は、次の100年も日本の自動車産業が世界をリードし続けるための〝孵化基盤〟となることを目指している。これまでは著名な講師を招いての勉強会が活動の中心だったが、今回の「リアル開発会議」との共同事業を契機に、具体的な「事業」を生み出す活動にも踏み出す。

 円安の追い風もあり、自動車メーカー各社の2016年度の決算では、営業利益で過去最高を達成する企業が相次ぐなど、現在の日本の自動車産業の業績は極めて良好である。しかしながら、次の100年を見据えた場合、日本の自動車産業の基盤は盤石といえるだろうか。クルマのパワートレーンは、ガソリン車が主流の時代から、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、そして最近では燃料電池車が登場するなど多様化が進んでいる。一つの企業ですべての領域における競争力を確保することは難しい局面になりつつある。

 さらに大きな変化は、クルマの知能化が急速に進んでいることである。ドライバー支援システムの普及と、その先にある自動運転技術の実用化は、自動車産業のありようを大きく変えていく。自動車産業は、IT技術と連動しながら、車両単体のビジネスから、都市内、あるいは都市間の「移動インフラ」のビジネスへと変貌する公算が強い。こうした非連続的な変化は、日本の自動車産業の存立基盤を根底から覆す可能性がある。

 こうした非連続的な変化に対し、危機感を抱く業界関係者は少なくない。また、こうした非連続的な変化に対応するためには、自動車業界の中に閉じていては打開策が得られないことを理解している関係者も多い。しかし、その多くは、どのように他分野の企業や団体と知見を交換し、どのように行動すれば良いのかが分からず、一歩前に踏み出すことができずにいるのが現状である。

4回のワークショップを実施、深まる将来への危機感

 こうした状況を打破するには、将来のあるべきビジョンを、企業の枠を超えた議論を通して構築し、関係者の知見や視野を広げ、交流を深める場が必要である。私たちは、次の100年も世界の自動車産業をリードし続けるために、このような場を提供し、具体的な行動を起こすためのプラットフォームとなることを目指し、有志メンバーで「自動車100年塾」を発足した。

 自動車100年塾は、2015年3月に発足し、2015年5月にNPO法人産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎氏を講師にお迎えして、第1回ワークショップを実施した。このワークショップでは、妹尾氏に「ロボットとしての自動車、サービスとしての自動車〝次世代産業生態系の観点から自動車の未来を考える〟」というタイトルで登壇いただき、イノベーションとは何か、産業生態系の変化、「オープン&クローズ」の知財戦略、「サービス」と「モノ」との関係性などについて講演いただいた。

 2015年8月に開催された第2回ワークショップでは東京大学政策ビジョン研究センター シニアリサーチャーの小川紘一氏を講師に迎え、「IoT時代の自動車産業と日本企業の方向性〝自動車産業にオープン&クローズ戦略思想が必要となった〟」と題して講演いただいた。

 小川氏は、先進国の製造業が直面する共通の課題として過去20年、生産性が伸び悩んでいることを挙げ、その一方では、100年ぶりに出現した経済革命が進んでいると指摘した。このように新しい産業生態系が生まれる中でビジネスモデルを設計するためのツールが「オープン&クローズの戦略思想」だと小川氏は指摘した。