宇宙飛行に対する日本人特有の心の壁

 筆者はこれまで全国で5万人以上の方々に宇宙飛行や宇宙ビジネスについての講演や授業をしてきました。その中で「皆さんは宇宙旅行へ行ってみたいと思いますか?」と質問すると、大抵の方が手を挙げます。しかし「では、ここに1枚の宇宙旅行のチケットがあります。欲しい人はいますか?」そう聞くと手を下げる人がたくさんいることにびっくりします。これは、特に日本人に特有の反応だと思います。

全国で講演する筆者
全国で講演する筆者
写真:ASTRAX
[画像のクリックで拡大表示]

 なぜ下げるのか理由を尋ねると、「訓練するのが大変」「宇宙飛行士みたいに優秀じゃない」「虫歯があったり目が悪くなったりして若い頃に宇宙飛行士になるのを諦めた」「会社や家族への影響(を考えて)」「旅行に命をかけるくらいなら温泉に行った方がいい」というような保守的な考えがすぐに出てくるようです。きっと海外で同じ質問をすると、全員がチケットに飛びついてくるでしょう。

 このように、日本人の感覚の中には特有の「宇宙に行くのは相当難しい」「自分には無理」という固定概念が染み付いています。これは実際に日本人で宇宙に行った宇宙飛行士や日本で宇宙業界に関わっている人たち、そしてその人たちの経験を伝えるメディアなどの伝え方に責任があるのだと思います。国家事業として税金で宇宙開発を行っていると、どうしてもハードルを高めないと認められないというような心理が無意識に働くからなのかもしれません。

 一方、世界では、どんどん宇宙へのハードルが下がってきており、一般人の意識もだいぶ宇宙が身近になってきています。以前、オランダの非営利団体Mars Oneによる企画で、無料で火星へ片道で連れて行ってくれるというものがありました。片道切符なので地球には帰って来られないのですが、人類で初めて火星に降り立つことができるかもしれないこの企画に、世界中で20万人以上が応募しました。しかし、その中に日本人は人口の比率から考えても少なかったそうです。

 米Virgin Galactic(VG)社の宇宙旅行もこれまで10年以上にわたり事前販売が行われてきましたが、実際にお金を全額振り込んで宇宙旅行の日を待っている人が世界で700人(予約だけの人も合わせると10万人以上)いるにもかかわらず、日本人はわずか30人くらいしか申し込みがないのが現実です。それくらい日本では、「宇宙には行きたいけど実際行くのは無理」と考えている人が多いということなのです。

 どんなに優れた宇宙技術があっても、顧客やユーザーがいなければ全く意味がありません。そこで筆者はこれまで約12年間、この日本人特有の心の壁を打ち砕き、宇宙へのハードルをどんどん下げ、宇宙を身近に感じてもらい、気がついたらみんなが宇宙ビジネスの当事者あるいは顧客になっている状況を作ろうと取り組んできました。そしてその中で、日本では宇宙に関する情報に偏りがあるのと、宇宙についての教育の仕方に問題があるということに行き着きました。さらに大人の認識が古いままの情報で止まっており、現実と大きくかけ離れている、あるいは間違って認識していることが多く、子どもたちへの伝え方にも問題があると感じています。そこで、宇宙を利用した子どもたちとの接し方にと今後の可能性についていくつか紹介していこうと思います。