日本では国家事業という位置付けだった宇宙開発の分野も、2008年に宇宙基本法が制定されたことによって国家が蓄積してきたロケットや人工衛星などの技術がようやく民間に開放されつつあます。その結果、小型ロケットや小型衛星を製造したり、それらを利用してサービスを行うベンチャー企業も少しずつですが生まれ始めました。しかし、有人宇宙分野についてはいまだに閉ざされたままです。それは国も受託先のメーカーも、まだ地球と宇宙を往還する有人宇宙船を持っておらず、その部分は米国とロシアに依存したままであることや、宇宙ステーションや宇宙飛行士など有人宇宙分野に不可欠なリソースについても日本では国家事業に依存している状態が続いているからです。

 海外では宇宙往還機も含め、国際宇宙ステーションの利用もどんどん民間に開かれつつありますが、日本はいまだにハードルが高く、広く一般に利用できるようにはなっていません。一方、米国ではすでに民間企業が独自に宇宙船を開発しだしており、さらには宇宙ホテルの建設や火星旅行の計画が発表されるなど、ますます勢いづいています。ではなぜ日本と海外でそのような違いが出てくるのでしょうか。

 民間企業が力を入れるということは、当然そこにマーケットがあり、利益が生まれるからです。裏打ちされた技術を持つ海外の民間宇宙ベンチャーは、まず先にマーケット作りから始めます。まだ宇宙船が開発されていなくても、先に宇宙旅行のチケットを売り出すのです。そこで利益が見込める需要があると分かれば投資家は投資します。その資金を使って宇宙船などを開発するので、完成した時には既に顧客がいるという状態なのです。

 一方、ものづくりから入る日本では、国や受託先のメーカーが優れたロケットや優れた宇宙船を造ればきっと売れると発想しがちです。しかし、実際に優れたロケットや宇宙船ができても、その時点ではまだ利用者もサービスを行う販売者も存在しません。そこからPRを始めても、事業の成立が見込めるだけの顧客が見つかるころにはすでに海外ではもっと安くて優れたロケットや宇宙船が出来上がっており、顧客がそちらに流れてしまうという悪循環に陥ってしまうのです。

 また、宇宙といえば、専門の訓練を受けた科学者や技術者、宇宙飛行士しか行けない場所というイメージが強いですが、そのままだとマーケットが全く広がりません。ハードルを下げ、子どもでもシニアでも誰でも宇宙に行けるという意識を広めた上で、是非宇宙に行きたいというマーケット(需要)を掘り起し、その人たちが必要としている宇宙船を作る、という方向に切り替えていかないといけないのです。

 そこで、国際宇宙サービス(ASTRAX)では、宇宙業界とは全く関係のない一般の方々と、先にマーケットやサービスを同時に作り出し、顧客側からのニーズを高めていって、最終的に「こういうロケットや宇宙船などが欲しい」という要望に応える形で、実際の宇宙船開発につなげて行くという流れを作ろうと取り組んでいます。宇宙開発産業のヒエラルキーとしては末端である一番の裾野側から宇宙を利用して何かを始めるというアプローチであるため、正直時間もかかります。その上、全くの素人が宇宙を利用しようとするので、はたから見るととても幼稚に見えるかもしれません。しかし、インターネットもGPS(全地球測位システム)も元々は軍事目的で利用されていたもの。それを、今では誰でも普通に使っています。同様に、宇宙だって結果的にそういう状況に変わっていくことは想像に難くなく、トップダウンのシーズとボトムアップのニーズの両方が重なった時、大きな産業が生まれるのだと我々は考えています。おそらく日本国内だけでなく、海外でもこのようなアプローチで宇宙利用というマーケットの開拓を進めている企業はないと思います(宇宙船開発と宇宙旅行チケットを扱う旅行会社以外で)。今回の連載では、これまでASTRAXがこのようなボトムアップ方式で宇宙利用のマーケット開拓を行なっている事例のいくつか紹介していきたいと思います。