圧電MEMSセンサー:無給電で振動データを無線送信、高い設置自由度

 産総研は人間の体調変化だけでなく、ポンプや配管の劣化状況といったインフラの“健康状態”も新たなセンサー技術で詳細に捉えようとしている。そこで核になるのが、MEMSセンサーである。産総研 集積マイクロシステム研究センターは圧電材料を活用するMEMSセンサー(圧電MEMSセンサー)を使い、あらゆるところにセンサーネットワークを構築するソリューション作りに挑んでいる。

 産総研が圧電MEMSセンサーの適用先としてまず目を付けているのが、ポンプの遠隔監視である。ポンプの稼働状況を自立電源でモニタリングすることへの高いニーズがあるからだ。圧電MEMSセンサーは小型、かつ振動を検出しながら発電するのが特徴。そのためセンサーの設置箇所の自由度が高い上に、検出データを無線送信する際の電力をセンサー自身の発電で賄うことが可能である。さらに電池などセンサーに外部から電源供給する必要がないので、電池交換などの手間が省けるといった利点もある。従って、限られたスペースや人間の出入りが厳しい場所などにある装置の稼働状況を遠隔監視するのに向いている。ポンプの稼働状況を遠隔監視する場合は、監視対象のポンプに圧電MEMSセンサーを取り付けておくことで、ポンプの振動を検知すると同時に振動から電力を獲得し、その電力を使って検出データを遠隔地に無線送信させることが可能だ。なお、無線には920MHz帯の特定小電力無線を用いる。

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 ポンプなどの装置の稼働状況監視やインフラモニタリングにセンサーネットワークを利用するケースは、既にいくつか存在する。産総研によれば、提案する圧電MEMSセンサーを用いることで、従来の手法ではセンサーの設置が厳しい場所でもセンサーネットワークを構築できるようになるとする。

原理を刷新、送信頻度で振動強度などを判定

 ポンプの稼働状況を自立電源で遠隔監視するときに課題になるのが、「ポンプの微弱な振動で、いかにセンサー検知データ送信に使える電力を賄うか」である。振動波形データをそのまま送信すると数十μWは必要。だが、圧電MEMSセンサーが発電する電力は、ポンプが発する0.1Gを切るような微小な振動の場合、圧電MEMSセンサーをコイン大くらいの大きさにしてもせいぜい1μWが限界。このため、振動波形データをそのまま送信することは不可能である。そこで産総研は、圧電MEMSセンサーで監視対象物の振動状況を検知・送信する仕組みの原理を見直した。

 新たに考案した原理は、圧電MEMSセンサーの発電量をアナログ回路で測定しながらコンデンサにためておいて、その電力で送信回路を駆動するというもの。こうすることで送信回路を駆動できるだけの電力を賄い、振動強度といったポンプの稼働状況を“送信頻度”で判定できるようにした。つまり、大きな送信電力が必要になる振動波形データを用いずに、ポンプの稼働状況が分かるようにした。

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 新たに考案した原理では、圧電MEMSセンサーがポンプの振動を受けるたびに生み出す電力をコンデンサに充電しておいて、送信できる電力量に達したら送信回路にコンデンサから電力を供給する。ポンプの振動強度が小さければコンデンサへの充電に時間がかかるので、送信回路駆動に必要な電力に達するまでに時間を要し、無線送信頻度が低くなる。逆に振動強度が大きければ、無線送信頻度が高くなる。センサー側からの無線送信頻度に変化が生じた場合、センシングする対象物の稼働状況が変わったことが分かる。

 こうした新たな原理を可能にするため、産総研は圧電MEMSセンサーとアナログ回路を工夫した。圧電MEMSセンサーについては、極めて微弱な振動から電力を得るために、半導体MEMSと新たな圧電材料を組み合わせて、振動発電の効率を高める開発を進めている。アナログ回路については、圧電MEMSセンサーをつなげる整流回路の高効率化、数百nWオーダーの微弱電力で駆動する電源回路の開発など、低電力化に取り組んでいる。

 さらに産総研は現在、東京都内の地域熱供給システムポンプ室で実証実験を進めている。圧電MEMSセンサーをポンプに貼り付け、ポンプの振動を常時測定することでメンテナンス時期を予測、異常発生を早期検出といったことが可能かどうかを検証中だ。

 ポンプの遠隔監視に用いる圧電MEMSセンサーやアナログ回路は、配管や橋梁、ビルなど振動しているあらゆる対象物の監視に応用することが可能である。産総研は企業などとの連携を通じ、適用先を開拓していきたい考えだ(産総研の相談窓口へのリンクはこちら)。

 なお、記事で紹介したセンサー技術は、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)の委託研究業務の結果、得られた成果である。

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