東アジアや東南アジアの地質や災害情報も保有、BCP策定に活用可能

――さらに産総研地質調査総合センターでは、表層の地質評価に加え、都市地盤を3次元で可視化する取り組みを進めていると聞きます。

斎藤氏 都市を中心に、地盤をボーリングしたデータを収集しています。おおよそ100mの深さまで、都市部がどのような地質から成っているのかを調査し、さらにそれが水平方向にどのように広がっているのかを3次元で把握するのが狙いです。それにより、軟弱層のような災害リスクの高い地層の分布を3次元で示します。こうして得た3次元の分布データは、地盤の液状化のしやすさや、揺れやすさの判別といった災害の軽減にかかわる情報に直結します。

――製造分野では、日本企業は海外に工場を設置するところが数多くあります。BCPを考えるとき、海外の事業所やサプライヤーの立地を考慮せねばなりません。日本以外の場所について、産総研は災害対策になるデータを保有していますか。

藤原氏 日本の地質図ほど詳細ではないものの、地質図Naviから東アジアや東南アジアの地質を見ることはできます。さらに、東アジア地域の災害履歴を集約した情報図も作成しています。地震の場合は震源がどこにあり、どこが津波に見舞われた地域であるのか分かりますし、火山の場合は火山灰が広がった地域も把握できます。私たちは、こうした地質情報と災害履歴とを総合的に評価することができます。

東アジア地域地震火山災害図(より解像度が高い図はこちらからhttps://www.gsj.jp/data/ASIA/JPG/GSJ_MAP_ASIA-E_HZD02_2016_300dpi.zip)
東アジア地域地震火山災害図(より解像度が高い図はこちらからhttps://www.gsj.jp/data/ASIA/JPG/GSJ_MAP_ASIA-E_HZD02_2016_300dpi.zip)
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 災害情報図を作成する段階で、あらためて気付いたこともありました。ある国ではサイクロンに襲われることがある一方で、火山はないのに土壌に火山灰が広く分布していました。過去に火山噴火の被害を受けた証拠です。災害情報図を見ると、隣国の火山が大噴火した際に降灰したものでした。1国だけで見ていては、起こり得る自然災害の危険性を十分に把握し切れません。国境を越えた災害情報図は、国外に進出する企業の工場新設やBCP策定の際に役立つでしょう。

――産総研では地質情報を基に解析技術を組み合わせ、「活断層近傍に位置する都市域の地震動評価」や「産業立地の評価や災害対策への活用が期待される地質地盤情報」、「構造物や機器の地震応答予測」、「有害重金属類によるリスクを考慮した表層土壌評価」など、民間企業と連携可能なメニューを提示しています。前述した、東アジアや東南アジアにおける大規模な地震・津波・火山噴火情報に関連する「東アジアビジネス圏におけるBCP対策の基礎資料」もメニューにあります。

斎藤氏 地質図Naviにある情報や地質情報を基にした防災・減災技術についてはぜひ、工場の設置やBCP策定などを担当する人たちに活用してほしいですね(産総研の相談窓口へのリンクはこちら)。工場設置場所を決める前であれば、ぜひ地質を検討項目に入れることをお勧めします。既に工場などを設置している場所であれば、地質情報からリスクを予測しておくことが可能です。

藤原氏 産総研には、地質の専門家や地層の物性を評価する専門家、それらのデータを基に地盤や建造物の揺れやすさなどをシミュレーションできる専門家などが一堂に会しています。そこが我々の強みです。

――少し違った視点から地質図を見てみると、施設の設置やBCP策定以外でも地質データを活用できそうに見えます。例えば、ゲームにも活用できるのではないでしょうか。ゲームの内容と地質を組み合わせて、特定の地質の場所を訪問するとストーリー展開が変わったり、化石とか鉱石など特殊アイテムを取得できたり、活断層上に来ると危険がせまってきたりなど。

斎藤氏 活用の仕方は多々あると思います。今日私が着ているシャツは地質図の絵柄をデザインに用いていますし、同じデザインのカバンなども作成しています。Webで公開する情報については、基本的に「政府標準利用規約(第2.0版)」に則って無償で利用できます。配色の変更や画像の一部割愛など基の画像データに手を加える場合には、製品に変更履歴を明記する必要があります。活断層の位置を勝手に変更してしまうような誤解を与える使い方でなければかなり自由に使えます。また印刷物などについては、CCライセンスで使い方を明示していますので、それらに従って使用する限り許諾は不要です。

藤原氏 最後に、地質の情報の利活用のさらなる拡大という観点でGeoBank(ジオバンク)プロジェクト(特定募集寄付金制度)を2017年から開始しました。これまで紹介してきた地質図Naviをさらに快適にご利用いただくためのシステムの開発や、地質の調査・観測などを安定的に継続するために必要な資金を企業や個人に広く募ることにました。皆さまのお気持ちを地質の調査に活かし、社会に貢献していきたいと思います。温かいご支援、心よりお願い申し上げます。