地質の違いと倒壊率はよく合う

――シームレス地質図を見ると、地質の違いが明確に色分けされています。この色の違いで、地震時の揺れ方の違いを予想できますか。

斎藤氏 さまざまな状況が関わってきますので正確に予想するのは難しいですが、産総研には地質図のデータを基に揺れの違いを計算したり、構造物や家具などの地震による揺れ具合いを予測できる研究グループがあります。

藤原氏 「何倍揺れやすいか」というのを明確に示すことは簡単ではありませんが、おおよその見当をつけることは可能です。基本的には時代が新しい地層は相対的に軟らかいので、揺れやすいといえます。細かく見ていくと、その新しい地層が石(礫)でできているのか、砂でできているのか、それとも泥なのかで揺れ方も違ってきます。こうした地質の違いも考慮することで、揺れの違いはかなり分かってきます。

日経BP社のオフィスが位置する場所の地質図(地質図Naviで20万分の1日本シームレス地質図を表示)。日経BP社の立地場所(港区白金1丁目、薄水色箇所)は、「約1万8000年前~現在までに形成された最も新しい時代の地層」と評価された。
日経BP社のオフィスが位置する場所の地質図(地質図Naviで20万分の1日本シームレス地質図を表示)。日経BP社の立地場所(港区白金1丁目、薄水色箇所)は、「約1万8000年前~現在までに形成された最も新しい時代の地層」と評価された。
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 実は、関東大震災に見舞われた東京で、どの地域がどの程度揺れ、建物の倒壊率がどのくらいだったのかを詳細に調査したデータがあります。そのデータを地質図と照らし合わせたところ、揺れや倒壊率の分布は地質の違いにかなり合致していました。

斎藤氏 地震時に寸断される道路や鉄道の箇所も、地質に大きく関係しています。例えば、地震時の挙動は地質によって異なるために、地質が違う土地の境目で道路や鉄道が寸断される危険性が高くなります。東日本大震災の際にもそのような事例が確認されています。どこが壊れる危険性があるのか、最初から予測しておくには地質図は最適です。

――地質の専門家でなくても、ある程度の予測は可能ですね。

斎藤氏 地質図の活用は、工場や会社が立地する場所のリスクを推測するだけにとどまりません。従業員が通勤するルートや流通ルートにどのような危険が潜んでいるのかを予測するのにも役立ちます。自分の会社が関係するサプライチェーンを考えたときに、どの企業のどの工場でサプライチェーンが寸断される危険性があるのかを見越し、万一の際の部品などの供給ルートを検討しておくといった使い方も可能です。

 立地といえば、道路や鉄道の状況といった交通の便で考えることが多いのではないでしょうか。利便性だけでなく、地質の条件をリスク管理のために検討項目に入れるべきです。

――日本では昨今、大事故発生の温床になりかねないことから、老朽化した橋脚やトンネルなどへの対応策が大きな課題になっています。センサーと無線通信を使った、いわゆるIoT(Internet of Thing)によるインフラ監視の必要性が高まっていますが、対象となる橋脚やトンネルなどの交通インフラは数多く、どこから手を付けてよいのかの判断が難しいといわれます。その際、地質図を活用すると、危険性の高い場所にある箇所から優先的に監視対象下に置けるのではないでしょうか。

斎藤氏 その通りです。シームレス地質図で地質の全体像を把握し、計画を立てるときに活用するのがよいでしょう。全体像を基に、当該箇所について地質コンサルタントが詳細に分析していくという流れが考えられます。

――すべての判断を地質コンサルタントに任せてしまう手もあるのではないでしょうか。

斎藤氏 必ずしもそうとは言えません。事業などの立案者・発注者が計画段階で地質情報を踏まえておくことを強くお勧めします。地質コンサルタントに入ってもらっても構いませんが、立案者・発注者にはどこに工場を建設すべきなのかなどを検討する段階で、まず地質情報を考慮してほしいですね。

 これまでは、土地を購入した後で地質コンサルタントに分析を発注することがほとんどだったと思われます。そうなると、仮に軟弱な地盤であったり、過去に地質を主因とする災害が発生したことが調査で明らかになっても、工場設置計画を元に戻すことはかなり難しいのではないでしょうか。仮にそこに工場を設置させるとなると、地盤への対策に費用がかさみます。こうしたことがないように、計画を立案する段階で地質を考慮すべきと考えます。これが、さまざまな面でのリスク軽減につながります。