トップアスリートから水泳初心者まで

 「ゼロポジション」は、発売した2010年から少しずつ競泳界に浸透していき、2016年リオ五輪に出場する選手では、200m平泳ぎの小関也朱篤氏、400m個人メドレーの高橋美帆氏などが「ゼロポジション」を用いたトレーニングを採用しているという。

 さらに、タイムを競うトップアスリートにとどまらず、水泳初心者向けなどレベルに合わせて浮力を高めたタイプも展開し、一般にも広げる。例えば、泳げない子どもなどは、初めから適切な姿勢でレッスンを受けることで、早く泳ぎを習得できるようになるという。スポーツクラブと提携し、「ゼロポジション」を取り入れた子ども向けの短期習得プログラムも提供している。水泳初心者だけでなく、健康増進目的で水泳に取り組む年配者なども、着用することで疲れづらくなり、より長距離を泳げるようになるという。

親水性を持たせて低抵抗に

両面親水性素材を用いた2016年モデルの「マーリン マッハ」。素材の両面を親水加工することで、体の伸びを制限せず、また着脱しやすくした。
両面親水性素材を用いた2016年モデルの「マーリン マッハ」。素材の両面を親水加工することで、体の伸びを制限せず、また着脱しやすくした。
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 練習用ウエアだけでなく、同社は試合用の水着の改良にも力を入れている。競泳用水着は、水を吸って重くなるのを防ぐため、撥水性の素材を用いることが一般的だ。撥水性素材は、水との抵抗の少なさにおいても優位性があると考えられていた。一方、同社の開発した素材「SCS(Super Composite Skin)」は、撥水性繊維のニット表面に親水性加工を施したもの。親水性加工により、水の抵抗を削減できるとする。

 きっかけはトライアスロンのウエットスーツ用に開発した親水性加工技術で、同社がトライアスロンのウエットスーツ素材で90%と高いシェアを獲得する要因となった。その後、トライアスロンの水着向けにニット素材を加工する技術を2006年に確立しており、それを応用したという。親水性加工を施す前の撥水性素材と水との摩擦抵抗係数は1.8程度だが、親水性加工によって素材表面に水分子の層が形成されるようになり、摩擦抵抗係数を0.021まで減少できる。

 2016年モデルでは、肌に触れる裏面にも同様の加工を施すことで両面親水性とした。これは、水着と肌との滑りをよくして、水着による動きの制限をなくすことが目的だ。着用者からは、外部から水や空気が入らず、着用時のフィット感が高いと好評を得たという。

 同社は、ヘルスケア分野向けの製品として、ひじやひざといった関節を温めることで故障を予防するサポーターなども販売している。今後はこういった製品を競泳の分野にも応用し、浸透させていく考えだ。