想定外の低迷――。米国スポーツ界最大の祭典である、米プロアメリカンフットボールNFLの優勝決定戦「第51回スーパーボウル」の開催を2月5日に控え、リーグ、メディア関係者の胸中は複雑かもしれない。2016年シーズンの米国でのテレビ中継は、開幕から視聴率の低迷という激震が走ったからだ。

 改めて言うまでもなく、NFLが総収益130億ドル(約1兆5000億円)を売り上げる世界トップのプロリーグとなった大きな要因は、テレビ中継で圧倒的な人気を誇ってきたからだ。多チャンネル化が浸透し、多くの視聴者を集めにくくなっている米国社会において、NFLのテレビ中継の視聴者数はほぼ右肩上がりで成長してきた。

 2015年のレギュラーシーズン、日曜昼の中継を行ったCBSは平均視聴者数が1910万人、日曜のナイトゲーム「サンデーナイトフットボール(SNF)」を中継したNBCが2250万人と、いずれも自局の中継史上最多の視聴者数を記録した。やはり、日曜昼の中継を担当したFOXも2070万人で史上2位だった。

全米で圧倒的な人気を誇るNFLの試合の様子(写真:NFL)
全米で圧倒的な人気を誇るNFLの試合の様子(写真:NFL)
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前年比で視聴者40%減の試合も

 それが、2016年シーズンは一転したのである。2016年9月9日に行われたカロライナ・パンサーズ対デンバー・ブロンコスの開幕戦は、第50回スーパーボウルの再戦という好カードにもかかわらず、視聴率が昨年比10%減の14.6%、平均視聴者数が8%減の2520万人というスタートになった。

 その後も「前年割れ」の放送が大半を占めた。9月29日から10月3日に行われた第4週までで、視聴者数は平均で前年より11%減、視聴率も12%減となったのである。なかでも9月26日に行われたアトランタ・ファルコンズ対ニューオリンズ・セインツ戦は全米向けに1試合だけ放送される月曜のナイトゲーム「マンデーナイトフットボール(MNF)」であったのにも関わらず、前年同枠から41%減のわずか800万人に留まった。

 さらに、その後も低迷は続いた。10月21~25日の第7週までで、平均視聴者数でFOXが1%、日曜昼のCBSが9%、CBSが放送した木曜夜の「サーズデーナイトフットボール(TNF)」が18%、NBCのSNFが19%、スポーツ専門局ESPNによるMNFが24%と全てダウンとなった。特に高い放映権料が設定されているナイトゲームが大幅減となったのは、放送局にとってもNFLにとっても頭の痛い事態である。

 当然、こうした低迷はビジネス面にも影響を及ぼしたようだ。放送局はCMを出している広告主に対して、放送契約で最低視聴者数を保証しており、それを下回ったために無料のCM枠を提供する件数が急増している、などといった噂も流れた。

最も有力な「大統領選説」

 同時に、多くのメディアなどが視聴低迷の原因を探すことになった。例えば、老舗のスポーツ専門誌「スポーツ・イラストレイテッド」や経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」などが複数の要因を挙げた。

 「近年問題となっている脳しんとうなど負傷の多発がプレーをつまらなくしている」「審判による反則判定が多くてつまらない」「特にナイトゲームで好マッチアップのゲームが少ない」「平均3時間8分という試合時間はYouTubeなど短い動画に親しむ今の若者世代に合わなくなっている」などである。

 なかでも最大の要因として推測されていたのが、意外にも大統領選の影響である。実際、これまでも大統領選が行われた年の11月の選挙前までの平均視聴率は前年割れが続いていたのである。

表 大統領選とNFLの視聴率の関係(注:2016年は第4週までのデータ。その他の年は11月の大統領選まで、出典:Sports Business Journal/NFL)
表 大統領選とNFLの視聴率の関係(注:2016年は第4週までのデータ。その他の年は11月の大統領選まで、出典:Sports Business Journal/NFL)
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