複数のプレーヤーによるコンピューターゲームでの対戦をスポーツと捉える「eスポーツ」と、リアルのプロスポーツチームが急接近している。米国などでプロスポーツチームによる、eスポーツチームの買収や出資などが相次いでいるのだ。その狙いは何なのか、スポーツ業界の思惑を探った。
 2016年9月26日、米プロバスケットボールリーグNBAのフィラデルフィア・76ersが、Team Dignitas社とApex Gaming社という2つのeスポーツチームを買収したことが明らかになった。

 その翌日の9月27日。eスポーツチームのTeam Liquidが、殿堂入りを果たした元NBA選手で、現在はメジャーリーグ(MLB)のロサンゼルス・ドジャースのオーナーの一人であるマジック・ジョンソン氏、さらにドジャースのオーナーの一人でNBAのゴールデンステート・ウォリアーズも所有するピーター・ガバー氏などの投資グループに、チームを身売りしたと発表した。

 さらに遡れば、2016年3月17日にはMLBのニューヨーク・ヤンキースを今シーズン半ばに引退したアレックス・ロドリゲス氏や元NBAスター選手のシャキール・オニール氏などの投資グループが、2つのeスポーツチームをマネジメントするNRG Esports社に出資している。

 欧州では独ブンデスリーガのFCシャルケや英プレミアリーグのマンチェスター・シティ、ウェストハムといった有名サッカークラブによるeスポーツのチームや選手と契約が続いている。

 なぜ、このようなスポーツチーム、関係者によるeスポーツへの参入がブームになっているのだろうか。それを読み解くにはまずeスポーツの状況を理解する必要がある。

生涯獲得賞金2億円超えのプロも

 eスポーツは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、複数の選手(ゲーマー)によって競われるパソコンや専用機向けゲームの対戦を、スポーツと捉えたものである。
eスポーツの試合で使われる「Heroes of the Storm」の画面(出典:Blizzard Entertainment社)
eスポーツの試合で使われる「Heroes of the Storm」の画面(出典:Blizzard Entertainment社)
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 始まりは1990年代の終わり頃。賞金が出る大会も開かれ、それを目当てにするプロゲーマーも出現するようになった。2000年代に入ると、国策的にeスポーツの普及を進める韓国を中心に少しずつ市場が拡大していったが、2014年以降は米国と中国の市場が急成長を見せているのである。

 ゲーム産業に特化した市場調査企業である米Newzoo社が2015年に発行したeスポーツ産業白書「The Global Growth of Esports」によれば、2017年には世界全体の総収益は4億6300万ドル(約480億円)に達すると予想している。同社CEO(最高経営責任者)によれば、2016年の米国市場での収益は1億7500万ドル(約180億円)を見込んでいるという。

Newzoo社が2015年に発行したeスポーツ産業白書「The Global Growth of Esports」の最初のページ(出典:Newzoo社)
Newzoo社が2015年に発行したeスポーツ産業白書「The Global Growth of Esports」の最初のページ(出典:Newzoo社)
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 市場の拡大は、同時に賞金の出る大会、プロゲーマー収入の拡大も生んでいる。eSportsの賞金を集計しているサイト、esportsearnings.comによれば賞金総額が1000万ドル(約10億4000万円)を超える大会が過去に3つあり、最も高額だった「The International 2016」は約2077万ドル(約21億6001万円)だった。

 また2016年10月上旬時点で生涯獲得賞金が200万ドル(約2億800万円)を超えているプロゲーマーが4人ほどいる。こうした流れのなか、日本でもプロゲーマーを集めたチームが設立され、活動している。

 この人気拡大の大きな要因となったのが、インターネットの動画配信サービスだ。プロゲーマーなどがゲームの凄技を披露した動画などを配信し、それを視聴する人口が急増しているのである。