今シーズンの総収益は140億ドルにも達するとも見られている、世界最高峰の売り上げを誇るスポーツリーグの米プロアメリカンフットボールNFL。2018年2月4日の「第52回スーパーボウル」に向けて17週に渡るレギュラーシーズンが進行中だが、その主要収入源である米国でのテレビ中継は開幕から波乱が続いている。

米国で圧倒的な人気を誇るNFLの視聴率低迷は一過性のものなのか・・・。写真は試合の様子(写真:NFL)
米国で圧倒的な人気を誇るNFLの視聴率低迷は一過性のものなのか・・・。写真は試合の様子(写真:NFL)

 放映権を持つ地上波のCBS、Fox、NBC、スポーツ専門局ESPNの4局は2021年まで結ばれている放映契約の下、今年1年で総額54億ドルも放映権料をNFLに支払うと見られている。その一方で昨シーズン、テレビ中継の視聴率は開幕から前年割れが続いた。大統領選挙後に持ち直したものの、最終的に平均視聴率は前年比で8%のダウンとなった。米国で圧倒的な人気を誇るスポーツに起きた“まさかの事態”に、放送・広告業界を中心にNFLの人気が低下しているのではと懸念を持たれるようになったのも当然だろう。

 もっとも、視聴率が下がったとはいえ、NFLのテレビ中継が現在の米国テレビ界において抜きんでたコンテンツであり続けていることには変わりがない。そのため、調査会社の米カンター・メディア社は、2016年に42億2000万ドルに達したとする4局の広告総収入が2017年はさらに上回るだろうとの予測を発表していた。それだけに、開幕からどんな数字が出るか注目されていたのである。

開幕戦の視聴者数は13%減

 しかし、注目されたシーズン開幕は自然という強敵に見舞われてしまった。米国とカリブ海諸国で80人以上の死者を出し、630億ドル近い損害を出したハリケーン”イルマ”である。開幕の第1週は9月7日から11日にかけて開催されたが、これがイルマの接近・上陸とぶつかったのだ。

ハリケーン”イルマ”の接近を考慮し、マイアミ・ドルフィンズとタンパベイ・バッカニアーズの試合を11月19日に延期することを発表したNFLのプレスリリース(図:NFL)
ハリケーン”イルマ”の接近を考慮し、マイアミ・ドルフィンズとタンパベイ・バッカニアーズの試合を11月19日に延期することを発表したNFLのプレスリリース(図:NFL)
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 同週末にイルマがフロリダ州南部に上陸する可能性が高まったため、マイアミで10日に予定されていたタンパベイ・バッカニアーズ対マイアミ・ドルフィンズ戦は、9月5日に同地で開催しないことが決定された。結局翌日、11月19日に延期することが決まった。

 そしてイルマが最強レベルであるカテゴリー5という勢力に発達して接近するなか、7日夜には他の試合に先立って、スーパーボウル王者のニューイングランド・ペイトリオッツと昨シーズン地区優勝しているカンザスシティ・チーフスによる開幕戦が、東部時間午後8時半からNBCにより全米中継された。

 注目度が高いカードだったが、調査会社米ニールセン社が発表した平均視聴者数は2180万人で、昨シーズンの開幕戦中継で記録した2520万人よりも13%も減少したのである。世帯視聴率も12.6%で昨年度比で14%の減少だった。これは共和党大会の影響で通常より1時間半早い東部時間午後7時開始を強いられた2008年の開幕戦以来最低の数字だった。

天気専門チャンネルに奪われる

 この日、天気専門チャンネルのWeather Channelは昨年同日比で実に13倍となる223万人の視聴者数を記録している。一般視聴者の関心をハリケーンに奪われた格好だ。

 それは、合計で11試合が行われた9月10日の日中の中継にも広がった。この日、イルマはカテゴリー4の勢力を保ったままフロリダに上陸、大規模な停電を発生させるなど膨大な被害を与えていた。結果、NFLのテレビ中継の平均視聴者数もやはり前年比13%減となったのである。対して同日午後4時から8時に、Weather Channelは前年同日比で25倍の448万人、ニュース専門チャンネルCNNも前週比で約4倍の317万人もの視聴者数を記録した。

 一方、10日夜に全米中継されたニューヨーク・ジャイアンツ対ダラス・カウボーイズのサンデーナイトフットボールは平均視聴者数が2440万人で昨年より6%増加したこともあり、開幕週の低い数字に関してはイルマのためと理由付けされることとなったのである。

 関係者のショックは続いた。9月14日から18日の第2週では天候問題など大きな出来事がなかったにもかかわらず、平均視聴者数は1580万人で昨年の1760万人から10%のダウンとなった。

 これに敏感に反応したのが、ウォールストリートだった。大手証券会社の米ジェフリーズのアナリストは、「もしこのまま10%の減少が続けば、4局の広告収入が2億ドル減少するだろう」という見方を示したのである。そして7日の開幕以降、NBCの親会社コムキャスト社の株価が9%、CBSは5%、ESPNの親会社のディズニー社は3%下がることとなった。「6秒CM」の導入で話題の21世紀Fox社だけは2%上がっていたが、他のアナリストも視聴者数減、視聴率低下はメディア関連株の下げ圧力になると指摘している。