1990年代から2000年代前半にかけて、急成長するIT(情報技術)産業をリードしてきた米マイクロソフト社。近年は、その地位を米アップル社や米グーグル社に奪われ、存在感が薄れていることは否定できない。そんな同社がイメージを回復するために賭けたのが、全米で圧倒的な人気を誇る米プロ・アメリカンフットボールNFLだ。

 2013年6月、マイクロソフト社はNFLと5年間の新たなパートナーシップ契約を結んだことを明らかにした。推定契約料が総額4億ドル(約424億円)という大型契約だ。以降、マイクロソフト社は公式スポンサーとして精力的な活動を続けている。

 この契約発表は同社のゲームコンソール「Xbox One」の発表に併せて行われており、実際Xbox Oneのネットワーク機能を利用してNFLの映像配信サービスなどが実施されている。しかし、ゲームコンソール業種での同社のスポンサー契約は旧世代のXboxを販売していた2011年から続いており、この大型の契約更新の目玉はそこになかったともいえる。

 では、どこに焦点が当たったかといえば、新契約では「サイドライン・テクノロジー・スポンサー兼公式タブレットとPC(パソコン)オペレーション・システム」という一見複雑な業種が加わった点である。具体的には、同社が開発・販売しているタブレット端末、「Surface(サーフェス)」が契約の対象となり、さらにサイドライン、すなわち試合の場にSurfaceが導入されることを意味した。

試合中にSurfaceを使って右の選手に指示を出すコーチ((C)NFL JAPAN. All Rights Reserved.PHOTO BY AP Image)
試合中にSurfaceを使って右の選手に指示を出すコーチ((C)NFL JAPAN. All Rights Reserved.PHOTO BY AP Image)
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 Surfaceは2012年10月に全米で発売されたものの、先行するアップル社の「iPad」の存在が大きすぎてシェアを伸ばせず、販売は苦戦が続いていた。そこで目を付けたのが、NFLだったのである。

 人気、テレビ中継の視聴率とも抜群のNFLの公式スポンサーとして、Surfaceが試合中に使用されている様子がテレビ画面に映れば強力なPRになる、と考えたことはまず間違いない。

紙の印刷からタブレットへ

 一方、NFLの側にもSurface導入の素地はあった。アメリカンフットボールではスタンド上部など客観的な位置にコーチやスカウトが陣取り、試合中に指示を出すことが長く行われている。

 NFLの場合、それに加えてスタンド上部に設置したビデオカメラで撮影したプレーをベンチに置かれたビデオプリンター(ビデオ信号を取り込んで画像の1コマを印刷する装置)で印刷してコーチや選手がチェックしていた。

 ただ試合の公平性の観点から、21世紀になっても動画を見たりすることは許可されず、白黒画像が印刷された紙の使用に限定されていた。当然、時代遅れの感は否めず、それがこの契約により一挙に近代化できたのである。

NFL専用ケースに収められたSurface。プレー画像が表示される((C)NFL JAPAN. All Rights Reserved.PHOTO BY AP Image)
NFL専用ケースに収められたSurface。プレー画像が表示される((C)NFL JAPAN. All Rights Reserved.PHOTO BY AP Image)
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