2016年8月5日の開幕まであとわずかとなったリオデジャネイロ五輪。今回はVR映像が配信される初の五輪となる。
米国でのテレビ放送権を持つ4大テレビネットワークの1つであるNBC社は、開会式から閉会式まで1日1競技、計85時間の映像をVR配信する。VR映像はオリンピック放送機構(OBS)が制作し、陸上競技や体操、バレーボールなどのハイライト映像が撮影日より1日遅れのタイミングで配信される。
対象となる機器は、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)社のHMD「Gear VR」のみ。さらにNBC社の有料視聴契約者向け動画視聴アプリ「NBC Sports TV Everywhere app」を通じてでしかVRコンテンツセクションにアクセスできない。残念ながら日本からの視聴は難しいものの、スポーツ観戦に新たな体験をもたらすVRに初めて乗り出した五輪として歴史に刻まれることだろう。
NFLでVRアトラクション
VRとスポーツの相性は抜群だ。観戦時にゴーグル型のヘッドセットを装着することで、360度全方向が仮想現実の世界に没入できる。観戦者が家にいたとしても、あたかもスタジアムやフィールド内にいるかのような臨場感、そしてこれまでのスポーツ放送では見たことがないような視点での映像を体験できる。
筆者がスポーツ界におけるVRブームを改めて実感したのは、2016年2月に米カリフォルニア州サンタクララ市で開催されたプロアメリカンフットボールNFLの優勝決定戦「第50回スーパーボウル」である。
ゲーム開催までの8日間、サンフランシスコ市のダウンタウンにある国際展示場に設けられたNFLのテーマパーク「NFL Experience」には“NFL Virtual Reality”と名付けられたVR体験ブースが設けられ、毎日多くの入場者が詰めかける人気アトラクションとなった。
このアトラクションはVR技術企業の米NextVR社と米Jaunt VR社が出展したもの。NextVR社は2015年のシーズン中、ニューヨーク・ジェッツ対テネシー・タイタンズやボルチモア・レイブンズ対ピッツバーグ・スティーラーズ戦など3試合を撮影し、360度見渡せるVR動画を作成した。
Jaunt VR社も独自に撮影し、会場ではサムスン電子のスマートフォン(スマホ)を利用したGear VRを使ってVR動画を体験できるようにしていた。実際に視聴してみたが、試合前のセレモニーや試合をフィールド上で体験しているような感覚が得られ、なかなかの迫力だった。
クォーターバック視点でゲーム体験
今回のスーパーボウルにおけるVRアトラクションはこれだけではなかった。ドイツのIT(情報技術)大手企業SAP社は、サンフランシスコのダウンタウンの一部を閉鎖して開催された屋外イベント「Super Bowl City」の自社ブース内で“Quarterback Challenge”というVR体験アトラクションを設置した。こちらは、アメリカンフットボールの攻撃の司令塔であるクォーターバック(QB)の視点でCGのフットボールを体験できるというものだ。
SAP社はサッカーなどプロの試合のプレー解析などでスポーツ分野に積極的に関与しており、今回の試合会場となった「Levi's Stadium(リーバイス・スタジアム)」を本拠とする「サンフランシスコ49ers」のスポンサーでもある。それ故、こうしたアトラクション展開は自社ブランドの格好のPRとなったことだろう。