AIが試合のベスト場面を抽出

 一方、世界的に有名なスポーツイベントにもAIが導入された。2017年7月3日から16日まで開催されたテニスのウィンブルドン選手権である。会場のオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ(AELTC)が、米IBM社が持つAI技術「Watson(ワトソン)」を利用したサービスを展開した。

 「IBM SlamTracker」と呼ばれるライブのスコアボードでは、同社のWatson APIを使用して、レーダーガンによるボール位置や速度のデータや選手の位置などのリアルタイム・データを分析。全試合のスコアはもちろん、選手の調子や戦術のプレー分析などをリアルタイムで大会のウェブサイトなどに表示した。

 さらに大会のハイライト動画の作成についてもIBM社のAI技術が導入されている。6つのメインコートで行われた試合の動画から歓声や選手の動き、試合のデータなどからベストの場面を抽出する作業をAIが手助けしたという。

 これはゴルフの4大大会の1つであるマスターズに続く導入で、IBMワトソン研究所のジョン・スミス・マルチメディア担当ディレクターは「ゴルフだと複数のホールで同時に数多くのアクションが起こる。テニスもそれに似ていてセンターコート以外にも多くのプレーが行われる。ファンがユニークな方法でテニスを見ることを望んだ」と複数のコートをカバーし、作業できる効率の良さを強調していた。

 もちろん大会アプリにもWatsonの技術が導入された。スマートフォンやタブレット端末にアプリをインストールしておけば、音声認識機能によって「アスク・フレッド」と話しかけると、会場の案内やエンターテイメントについて情報を得ることができた。

 IBM社との提携についてAELTCのアレキサンドラ・ウィリス部長は「IBMの技術革新によって、試合をどこで見ていても、どんなデバイスで見ていても、世界中のファンとつながることができる。スポーツの素晴らしいデジタル体験の提供に力を入れている我々の方針にとって重要な存在」とその意義を語る。

 AIを身近にする機器として、米国ではスマートスピーカーの普及が進みつつある。“老舗”のアマゾン社が先行し、それを米グーグル社が追い、米アップル社も2017年12月に発売する予定だ。一方で、IBM社はWatsonのスポーツ界での展開を独自に進めている。スポーツファンの獲得や拡大にAIが不可欠な存在となる未来は、もうすぐそこに来ているのかも知れない。