リアルタイムマーケティング――。従来型のテレビCMとはまったく異なる、Twitterを使ったネットマーケティングの手法が、米国で広がっている。プロアメリカンフットボールNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」は、リアルタイムマーケティングの一大イベントでもある。毎年スーパーボウルを取材しているジャーナリストの渡辺史敏氏に、最新事情を解説してもらう。

 米国スポーツ界最大のイベントである「スーパーボウル」は、「リアルタイムマーケティング(RTM)」の最前線でもある。

 RTMとはスポーツの試合やアカデミー賞など大規模なライブイベントの際、例えば得点シーンや受賞発表などの出来事に合わせた内容の書き込みをTwitter(ツイッター)にタイムリーに投稿する(ツイート)ことで、自社やブランドをアピールする行為だ。

 まさに「セカンドスクリーン(テレビ以外のスマートフォン、タブレット、パソコン)」向けのマーケティング手法で、日本でも映画「天空の城ラピュタ」(監督:宮崎駿)がテレビ放映される際、台詞に合わせ「バルス」という呪文をツイートすることに企業が参加したことが話題になった。このように、RTMはリアルタイムに起こったことに反応するのが特徴だ。

RTM流行のきっかけは試合中の停電

3年前のスーパーボウルでOreoが停電時に投稿したツイート(画像:ナビスコ社)
3年前のスーパーボウルでOreoが停電時に投稿したツイート(画像:ナビスコ社)
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 以前紹介したように、2016年2月7日に開催された「第50回スーパーボウル」では、Twitterの利用自体は昨年に比べて大きく減った(ツイート数は2700万、閲覧は43億回)。それでもスーパーボウルは、セカンドスクリーンでのSNS利用としては世界でもトップクラスの大イベントで、今年もTwitter上ではRTMが盛んに展開された。

 実はRTMが米国で流行するきっかけになったのも、スーパーボウルだ。3年前に開催された第47回では、会場となったニューオーリンズのスーパードームが34分間に渡って停電、ゲームが中断するというアクシデントに見舞われた。

 この時、米ナビスコ社のクッキー・ブランド「Oreo(オレオ)」が「停電?問題ない」、「暗闇でもダンクできるよ」というツイートを投稿したのである。

 ダンクとは「浸す」という意味で、米国ではミルクにオレオを浸して(ダンクして)食べるため、停電でもオレオは食べられる、とアピールしたのだ。

巨額のCM料払わず効果的に宣伝

 このツイートは瞬く間に拡散され、投稿後1時間でリツイートの数が1万を突破した。これを見て、うまくRTMを活用できれば、大きな効果が得られると多くの広告関係者が認識した。

BarkBoxのツ イート(画像:Bark & Co.社)
BarkBoxのツ イート(画像:Bark & Co.社)
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 Twitterを使うRTMであれば、スーパーボウルのテレビ中継でCMを放送するのに必要な莫大な放送権料(今年は30秒で約5億円)は不要。ましてや、Twitterのアカウントがあればどのような企業・ブランドでもスーパーボウルの盛り上がりに参加できる。実際、Oreoはこの時、スーパーボウル中継でCMを放送していなかった。

 こうしてRTMが盛んに行われるようになり、2015年のスーパーボウルで実施したブランドの数は30を超えたという。

 今回も、カロライナ・パンサーズがタッチダウンで得点するとニューヨークの地元紙「ニューヨーク・ポスト」が、「パンサーズのタッチダウンはダンスの時間」というメッセージとともに、パンサーズの選手がセレブレーションで踊る動画GIFをツイートをした。

 デンバー・ブロンコスの司令塔ペイトン・マニング選手がパスを奪われると、ペット商品関連の米Bark & Co.社のサービスブランド「BarkBox(バークボックス)」が苦い顔をするマニング選手とそれに似た顔の犬を並べた画像をツイートする、というような多彩なRTMが展開された。

Twitterで携帯電話会社が火花

 そんななか、ライバル企業同士が火花を散らす展開となったRTMもあった。

 まず、携帯電話会社の米ベライゾン・コミュニケーションズ社が、自社の告知アカウントで「満員のスタジアムで、第1クオーター終了時点のネットワークスコア(通信速度の実測値)はこの通り」というメッセージとともに、1枚の画像をツイートした。同社は、今回のスーパーボウルの会場となった「Levi's Stadium(リーバイス・スタジアム)」を本拠地とするサンフランシスコ49ersの公式スポンサーである。

 その画像には、スタジアムのスタンドに自社のスマートフォン(スマホ)とドイツテレコムの子会社であるT-モバイル(T-Mobile)社のスマホを並べ、通信速度テストを比較した様子が写されていた。ベライゾンの下り速度(ダウンロード時)が19.75Mbps(ビット/秒)を示し、T-モバイルのそれは8.69Mbpsとなっていた。ベライゾンは今回のスーパーボウルのために、開催地域に7000万ドルを投入してネットワーク設備を増強していたため、自社の優位性をアピールしたかったのだろう。

ベライゾン・コミュニケーションズ社の速度比較に関するツイート。右はベライゾン、左はT-モバイルのスマホでの通信速度(画像:Verizon Communications社)
ベライゾン・コミュニケーションズ社の速度比較に関するツイート。右はベライゾン、左はT-モバイルのスマホでの通信速度(画像:Verizon Communications社)
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